夏の生ぬるい風が、窓の隙間から入り込んでくる。
わらび手の花はさみを手に一輪の花を眺める私は、胸の奥にあるねじれた感情をぶつけるようにして、茎をジャキジャキ切り落とした。
切っても、切っても、晴れない心。
膝の前で無残に転がる茎と葉は、まるで今の自分を映しているかのよう。
誰かに聞いてもらえれば、少しは楽になるのだろうか。
けれど、人に話すということは、自分の恥をさらすことにもなる。
人は腹を抱えて笑うだろう。
きっと、私を見る目まで変えるに違いない。
言えるわけがない。
何本もの花を滅茶苦茶に切り刻んでいるこの姿を、誰にも知られたくない。
惨めで情けない女に成り下がってしまった自分が、醜くて嫌になる。
はさみを持ったまま畳の上に両手をつく私は、溢れる涙をこぼさぬように口元に力を込めた。
けれども、抑えられない思いは頬を伝い、私は小さな声で彼の名を口にする。
何度呼んでも、彼は今日も現れない。