携帯電話から流れる大好きなアーティストの音楽が、真夜中の眠りを妨げる。
「ん……」
闇の中にけたたましく鳴り響く着信音。
「何……?」
深い眠りから意識を無理やり現実に呼び戻され、重たい体にやや不機嫌な感情を抱いて頭を起こし、瀬奈が枕元の携帯電話を手に取った。
誰だろう?
左手で目をこすりながら右手で携帯電話を持つ。画面に"快"の文字が表示されている事に気づき、瀬奈は瞳を開いた。
「――もしもし!」
オープン通話設定の携帯電話を開き、そのまま耳に当てる。ザワザワと胸が騒いでいるのが自分でも判った。
「……俺」
スピーカーから、かすれた快の声が漏れてきた。
「どーしたの?」
声の調子で沈んでいる事が判る。瀬奈は思わず上体を起こした。
「……帰りたい」
かすれた声で快が呟く。瀬奈は一瞬携帯電話を耳から離し、画面上部隅に表示されている時計を見た。
――霊時四十七分。
「快、今どこ?」
鼓動が加速してゆく。思わず左胸に手を当て、瀬奈は自らを落ち着かせるようにゆっくり訊いた。
「病院だよ……」
彼の返答に、沈み込むように安堵する。瀬奈はベッドを出ると部屋の電気を点けた。
「……帰りたい……。朝いちで迎えに来て……」
「え……」
快の言葉に戸惑う。快は昨日、入院したばかりだった。
「どーしたの? 何があったの?」
「何もない……。ただ、帰りたいんだ」
「……大丈夫?」
「……朝までは我慢するよ」
快の声がどんどん頼りなくなってくる。鼓動の加速が止まらず、瀬奈の胸が鈍く痛み始めた。
「なぁ」
快が瀬奈を呼ぶ。
「迎えに来てくれるだろ?」
「……行くわ」