「じゃ、何かあったら電話しなさいね」

 そう言って、少し心配そうな表情を残し、紗織が病室を出て行く。快はベッドに横になり、ぼんやりと天井を見上げた。

 ――いい天気だ。

 ベッドから少し離れた場所にある窓から覗く青空は春の暖かなブルーで、何だか嫌味なくらい綺麗で、快は思わず目を閉じた。

 ――入院か……。

 四人部屋の廊下側、入ってすぐ左側のベッドが、今日からの彼の住家である。精神科に入院なので、特別に区別された病棟を想像していたが、驚いた事に、他の科の入院患者と同じ病室で、快の部屋も快を含め四人中三人が精神科の患者で、残りの一人は整形の患者だった。

 病棟も総合って訳か。

 田舎の総合病院なので、精神科とその他の科の病棟を分けられるほどの余裕がないだろう。期待外れの展開に、安堵癌と落胆が入り交じる中、快はモゾモゾと掛け布団を引き寄せた。

 ――あれからもう、二週間か……。

 布団の中で目を閉じ、快はため息をついた。

『あの、警察に……連れてってください』

 あの夜、静かな闇の中で、頼りなく響いた瀬奈の声。快はゆっくりと、あの日の事を思い返した。



「瀬奈ちゃん……」

 頼りなくささやいた瀬奈に、息を呑みながら耕助が近付く。

「大丈夫かい?」

「はい」

 耕助の心配そうな問い掛けに、最初こそ頼りなかったが、意外にもしっかりとした声で瀬奈は返事した。

「動揺はしてますけど……大丈夫です」

 話す程にしっかりとしてくる瀬奈の声。

「瀬奈……」

 そっと腕を伸ばし、快は瀬奈の二の腕に触れると、瀬奈は薄い微笑みを浮かべた。

「おじさん、連れてってください」

「あ、ああ」

 まだ動揺を隠せない耕助と紗織に、完全に普通の声になって瀬奈が言う。

 俺も……。と言いかけたが、快の唇は動かなかった。