「テレビの音、小さくしてくれる?」
日曜日、せっせと荷造りをしている瀬奈に、快が言った。
「あ、音、うるさかった?」
瀬奈が好んで見ている海外ドラマの映像が流れるテレビ。瀬奈は慌ててリモコンを取り、音量を下げた。
「ごめんね」
快はベッドに横になり、布団を頭までこっぽり被っている。瀬奈はリモコンを置くと、今度はガムテープを取り、段ボールを梱包し始めた。
「ごめん、やっばり……消して」
しばらくして、布団の中から再び快が言う。その言葉に瀬奈も今度は手を止めた。
「ごめん、調子、悪い……?」
「ん……」
瀬奈の言葉に快が小さく頭を動かす。「ごめん、何かテレビの音聞くと、気分悪くて……。見るなら悪いけど、別の部屋で見てくれる?」
布団を被っているので声がこもっている。かすれた小さな声に、瀬奈は慌ててテレビを消した。
「荷造りは……いいかなぁ? なるべく静かにやるから」
「ん……」
快の返事を確かめ、瀬奈が静かに荷造りを再開する。瀬奈はここ何日かずっと、その作業に追われていた。
愛美と喧嘩した事で、城ヶ崎家の家族は完全に崩壊し、バラバラになった。別に家庭を持ったので当然といえば当然なのだが、愛美はあれきり姿を見せず、結奈もどこでどうしているのか判らない。
そして瀬奈は、事情を知った耕助と紗織に、"最近は物騒だから"と言う理由で、神童家での同居を勧められ、長年住み慣れた城ヶ崎家を出る事になった。
――短い一人暮らしだったな。
あらかた片付いた部屋を見て、瀬奈はちょっと笑った。
一見非常識と思われる神童家での同居だったが、耕助たちにとっても、快が二つの家を行き来するより、皆で一緒に暮らして方が、より沢山の目で快を見守れるという利点があり、瀬奈にとっては信じられない程ありがたい話だった。
――全く、実の親より優しーよ。
作業が一段落し、快を起こさぬようそっと部屋を出る。快の様子が判るよう、すぐ隣の結奈が使っていた部屋で静かにテレビを見ていると、しばらくして、トイレに起きた快がやって来た。
「こっち来てよ」
そう言いながら、快が瀬奈を抱き締める。「一人は寂しい……」