そのまま城ヶ崎家で浅い眠りに落ちてしまった快をベッドに残し、瀬奈は静かにパソコンの電源を入れた。

 Googleを出し"うつ病"と入力してクリックする。するとすぐにたくさんのサイトがヒットし、そのあまりの数の多さに瀬奈は愕然とした。

 正直、ここまで多いとは思っていなかった。しかし、ここで立ち止まっている訳にはいかない。瀬奈はしばし逡巡した後で、一番上のサイトをクリックする。瀬奈は喉を鳴らして唾を飲みながら、チカチカする画面の文字を読み始めた。


〔うつ病の定義は、二週間以上、うつ状態が続くとされています。
症状は食欲や意欲、性欲の減退、悲観的思考、活動性、気力の低下、興味や喜びへの低下、絶望、不眠、焦躁、自殺願望等。
原因は脳内物質の分泌異常と考えられています。
うつ病の患者さんは、長い闇の迷路を彷徨っているような状態で、何もできない自分に対し、絶望している事も多く、"頑張れ"等の慰めの言葉は厳禁です。
うつ病の患者さんは充分頑張った先に発症されているので、"頑張れ"と言われると、頑張れない自分に絶望し、追い詰めてしまった結果、最悪の場合、自殺という選択をしてしまいます。ですから絶対に"頑張れ"は言わないでください。もう充分、頑張っているのです。
それから、ナイフや刃物、ロープといった物は患者さんの周囲から取り払ってください。薬も家族の方が管理してください。
そして、患者さんが何を言っても、決して否定しないでください。
否定されると、自己の存在を否定されたと絶望し、追い詰めてしまいます。
例え「死にたい」と言っても、すぐに「駄目」とは言わず、「うん、でもね、あなたが死んだらわたしは悲しいから、あなたには生きていて欲しい」と、自分の死に対して悲しむ人がいる事や、死なないで欲しいという事を、優しく伝えてあげてください。〕


 簡潔で判りやすい文面だったが、読み終えた時、瀬奈は言葉を失っていた。

 ――慰めは厳禁。

 マウスをクリックして画面を下へとスクロールすると、更に文章が続いていた。


〔見た目は何もせず、寝ているだけなので、よくうつ病患者さんの事を"怠け病"と言う方がいますが、それは大きな間違いです。
患者さん自身の中では、絶望感や焦燥感、葛藤が存在します。決して怠けている訳ではありません。そこをご理解ください。〕


『うつ病? 何だ、"怠け病"か!』