快が体調を崩してから一ヶ月近くが経過し、暦はもうすぐ六月になろうとしていた。

 太陽は夏に向けて高度を下げ、地上を熱く照らしている。そんな中、快の体調は悪くなるばかりで、通学路や街で人込みにもまれて気分が悪くなったり、授業中に気が遠くなったりと、社会生活が少しずつ困難さを増し、休学を考えるようになっていた。

 行かなければいけない。ちゃんと勉強しなきゃいけない……。そんな焦燥感にとらわれる日々。しかし、身体が言う事をきかない。快はそんな、どうにもならない体の重さと優れない気分にすっかりふさぎ込み、ベッドの中で一日を過ごす事が増えていた。

 ――明日になれば、何か変わるかも……。

 快の目が、ゆっくりと机の上のカレンダーに向かう。彼は明日、初めての精神科受診を控えていた。

 これでやっと楽になれる。たった一つの希望のように、快はその日を心待ちにしていた。

 明日受診すれば、この得体の知れない体調不良の原因が判って、それに伴った何らかの投薬や治療が始まり、楽になる――。快はそう単純に考え、期待していた。



 翌日、学校を休んだ快は、一人で近くの総合病院を訪れた。自宅から一番近い精神科がここなのだ。

 ――やっぱり、抵抗あるな。

 若干の抵抗感を感じながら総合受付に向かう。足がどうしても少し重くなったが、原因を知って楽になりたいという気持ちがかろうじて、その足を前に踏み出させた。

「すみません」受付の女性職員にそう声をかけ、保険証と以前、別の科を受診した時に貰った診察券を提示する。

「今日はどちらの科を受診されますか?」

 保険証と診察券を受け取って女性職員がカウンター越しに快を見上げる。

「あの、精神科を――」抵抗感から少し小さな声で快がそう答えると、女性職員は側のパソコンを操作し、再び快を見た。

「精神科ですね。お呼びしますのでお掛けになってお待ちください」

 あくまで事務的な声だった。恐らくもう何年もこの仕事をしているのだろう。女性職員は眉一つ動かさない。快は側のソファに腰を下ろし、溜め息をつきながら、周囲に視線を投げた。朝の総合受付前の待合所と言う事もあり、所内には高齢者や小さな子供を連れた若い母親の姿が目立った。

 ソファに背中を預け、静かに息をつく。しばらくして、さっきの女性職員が快の名前を呼んだので、快は立ち上がってさっきの受付に向かった。

「カルテの用意ができましたので、これを精神科の受付に出してください」