「おはよう」
外泊許可が出た土曜の朝、瀬奈が病室に着くと、快は既に鞄を肩にかけ、すっかり帰宅準備を整えていた。
「帰ろっか」
同じ"整った準備"でも、前回とは違い"正式な外泊"なので気持ちは随分軽い。二人は病室を出るとナースステーションで看護師に軽く挨拶し、並んでエレベーターに乗り込んだ。
「さっき桜並木見たんだけど、今、ちょうど満開で綺麗だよ」
「ん……」
エレベーターを降り、人気のない暗いロビーを病棟入口へと向かう。外に出てしばらく歩くと、瀬奈の言った桜並木が二人を迎えた。
「綺麗だね」
「……うん」
「こんな日は外でお弁当でも食べたいね」
瀬奈の言葉に快は答えない。病気になってから、快は思うように外出できなくなったので、話しかけながらも瀬奈はそっと、快の様子を窺った。
もし調子がいいなら、後で本当に花見に誘ってみよう。
黙って歩く快は無表情だが、それは病気に関係なく、昔から感情を表に出さない快のいつもの事。それ故、瀬奈はあまり気にせず、頭上に広がる桜を見上げながら、久し振りに快とゆっくり過ごせる嬉しさに気持ちを弾ませ、歩を進めた。
「瀬奈、仕事は?」
不意に快が尋ねてくる。
「ん……まだ、慣れない」
「そう」
短い会話の後、桜並木を抜ける。桜並木を抜けしばらく歩くと家が見えてきた。
快の口数の少なさは珍しくないので、道中の短い会話も瀬奈は気に止めず、先に立って玄関のドアを開け、彼を中に通した。
「お父さんたちは……?」
「おじさんもおばさんも今日は仕事。爽ちゃんは朝から出かけてる」
「そう」
短く呟き、快が自分の部屋に入ってゆく。瀬奈はキッチンへ行くと、お茶の準備を始めた。
最近、皆で好んで飲んでいるプーアール茶のティーバッグを出そうと吊戸棚を開ける。と、不意に背後に人の気配を感じ、瀬奈は振り向こうと首を動かした。
「――瀬奈」
しかし、振り向く前に突然、後ろから快に強く抱き締められ、瀬奈は驚いた。
「セックスしよう」