――よく寝てる。

 真夜中、快は瀬奈の寝顔をじっと見つめていた。

 子供の頃から当たり前のように側にいて、寝顔も見慣れている瀬奈。抱き合ったまま眠りについたので、とても近くに彼女の顔がある。

 本当なら、今は自分が瀬奈を支えてやらなければいけないのに、逆に支えられている。ひっそりと沈む闇は、まるでこの世に二人きりのような孤独を連れてくる。

 今の俺は……お前なしには生きられない。

 瀬奈は、最近少しやつれたように感じる。

 ――ごめんな……。こんな俺なんて、いない方が楽だよな……?

 再び手招きする魅惑の死神。と、まるでそれを感じ取ったかのように、瀬奈が瞼を開けた。

「眠れない……?」

 瀬奈がささやく。「まだ、不安……?」

「ん……」

 瀬奈に真っ直ぐ見つめられ、快か瞳を伏せた。瀬奈がそっと抱き締めてくる。

「大丈夫だよ」

 しばらくして、そのまま瀬奈が再び眠りに落ちる。快は瀬奈の体に腕を回し、目を閉じた。



「おい」

 耕助の声に紗織が顔を上げる。

「ずっとここで寝てたのか……?」

 空が東から白み始めた神童家のダイニングテーブルで。紗織はうたた寝をしていたようだった。

「もう、朝だぞ」

 すぐ近くで耕助の声がする。どうやら耕助は二階の寝室で目を覚ました後、隣のベッドに自分がいない事に驚いて、ここへ来たようだ。

「ああ、つい……」

 紗織は寝癖のついた前髪を整えながら、少し疲れた表情で耕助を見た。

「快から連絡は?」耕助が訊く。

「いえ、でもさっき、瀬奈ちゃんからメールが」

「何て?」

「今はよく寝てるから、起きたら病院に戻るか、こっちに帰って来るか、快の意志を聞いて場合によっては説得してみますって」

「そうか……」

 紗織の言葉に耕助は小さく息を吐き出し、紗織の側を離れてリビングのソファに腰を下ろした。