──何も、いらない。


満月が浮かぶ闇の中、ざわっと木々が揺れた。





「お前……がっ、噂の、花姫か……っ⁉」





何も、何も。


ほしいのは、勝つ為の力だけ。





「ひっ、も、申し訳っ!」





男を乱暴に押し倒すと、寒さで凍えた手で苦無を握り、喉元に押し当てる。


力を込めると……少しだけ、血が流れ出た。


全く根性のない男どもだ。


皆、弱い──。


弱いくせに、己の力だけで人を苦しめる。


こんな奴らなんか、この世界に……





「いらないんだ」





皆、闇に染まってしまえ。





「消えろ──」





苦無を持つ手に、私はさらに力を込めた。