9月19日。

誠は朝起きると、一階へ下りた。春男の姿がある。会社に出かけるところのようだ。

「誠」

誠に気づいた、春男が言う。

「お父さん」

「何や、相談って?」

誠は秋子のいない事を確認すると、小さな声で春男に言った。

「お父さん…千円、千円だけ、貸してくれへん?」

「え?別にええけど…」

と、春男は財布から千円札を取り出し、誠に差し出した。

「何や、使いすぎたんか?」

「うん…」

「そろそろバイトせな、あかんぞ」

そう言って、春男は玄関に向かった。

「うん。ありがとう」

春男が家を出た5分後、誠も家を出た。家を出ると、駅に向かって歩き出した。その途中、麗菜が地べたに寝転がっているのが目に入る。

「麗菜…」

声をかける誠。

「お、誠。おはよう。どこ行くんや?」

誠が私服な事に気づき、麗菜が言う。

「お前、学校は?」

「今日は、休む。ちょっと、用事があるんや」

「そうか。お前出席日数足らんのやから、ちゃんと学校行かなあかんぞ」

麗菜が笑って言う。その麗菜の姿に、あらためて悲しくなった。

「麗菜…」

「何や?」

「昨日は、ゴメン。こんなとこに、野宿なんかさせて」

「お前のせいちゃう。それにこれからは、毎日野宿やねんから」

「麗菜…」

もう二度と、野宿はさせない。そう心に強く思った。

「ここで、待っててくれ」

そう言った誠は、麗菜を後にして歩きだした。