コンクリートのマンション。

 こいつの嫌なところは夜になるといやに靴音が響くところ。

 革靴だろうがスニーカーだろうが関係なく、ただただ乾いた無表情な音が背筋を叩く。

 それがまるで足元の影に身体を押し込めようとしているようで、落ち込んだ気持ちをさらに深みへと押し込んでくれやがる。

 おあつらえ向きに通路の蛍光灯が点滅してたりするもんだから効果は無節操。

 溜息をつくことすらめんどうになった俺は眉間に鉛筆がはさめそうなほどシワを寄せたまま玄関の鍵を開け、

「おや、こんばんわ」

 不意に隣のドアが開いて根無し草な男が顔を覗かせた。

「あ、こんばんわ」

 久しぶりに見る隣人ではあったがそれ以上の会話をする必要も気力もない俺は軽く会釈をして部屋に入ろうとしたのだが、

「あぁ、ちょっとまって」

 男がそれを引き留めた。