「……で。
なに? あんた達、まさかそれで別れたの?」



いつもの1.5倍化粧の濃い明日香が、ギロリ、と私を睨んだ。



「……の、かなあ……」



ズズズズ、と、バンボージンジャーを、まるで熱いお茶を飲むようにして啜る私。



「のかなあ、じゃないわよ!
成り行きで付き合うって話はよくきくけど、成り行きで別れるなんて、聞いたことない!」


そっぽを向いて、グラスの中の白ワインをグッと飲み干す明日香。
その仕草は、至って男前だ。


「うん。だって……」


私は俯きながら、生ハムサラダに手をかける。
狙っていた大きな生ハムを、シュッと横から明日香に取られた。



「取られるわよ、若い女に。
あんたの、タクちゃんも」


むしゃり。
明日香はこれ見よがしに、真っ赤な唇で生ハムを飲み込む。




明日香が、私達のために予約してくれたレストランは夜景の綺麗な、けれどあまりお高くない穴場のレストランで。
明日香曰く、魚料理が抜群に美味しいらしい。

フレディの友達がやっているレストランらしいけれど、そのフレディは今、外でナンパに精を出している(らしい)。


待ち合わせ場所で、いつもと私の様子が違うのと、拓が隣に居ないのを見て、明日香は隣に立つフレディに何やら耳打ちをした。
金髪に青い目で、スクリーンの中でしか見たことがないような美男子は、云々かんぬんと私に英語で挨拶をして(全く聞き取れなかった)、甘い香水の匂いを漂わせて去って行った。


4名様で予約した大きな丸テーブルは、女二人でスッカスカ。
きちんと整えられたテーブルセットが、やけに虚しい。