全ての住民が三毛別分教場に避難した六線沢に人影はなく、怯えながら固く戸締まりをした三毛別の各農家がヒグマ避けに焚く炎が昨夜から不気味に寒村を照らしていた。

小村の住民だけでは最早為す術なく、長老らは話し合いヒグマ退治の応援を警察や行政に頼る事を決議した。

その一方、家族に襲いかかった悲劇を知る由もなく雪道を往く斉藤 石五郎は、役所と警察に太田家の事件報告を終えて10日は苫前に宿を取り、11日昼近くに帰路についた。

下流の三毛別に辿り着き、そこで妻子の受難を知らされた彼は、呆然と雪上に倒れ伏し、ただ慟哭をあげるしかなかった…。