「愛したら負け。」

昔、友人に彼の事を尋ねたら、友人は苦笑しながらそう答えた。
不意にその言葉を思い出し、俺もあの時の友人のように苦笑して、「確かにそうだ。」と呟いた。

彼こと瑳峨野 明雅(さがの あきまさ)は俺の「恋人」である。
容姿端麗。
成績優秀。
才能溢れる瑳峨野は常に大勢の人間の憧れの的。
俺と彼は小学校に通っていた頃からの知り合いで、取分け目立った才能もない平凡な俺と彼とは正直不釣り合いであることは自他共に認めるレベルの筈だけれど気が付けば何故か俺と彼は殆どの時間を共にしていた。
可笑しな話だ。

そんな彼が俺に愛の告白をしたのは中学の卒業式が終了し、別れを惜しむ生徒、教師が涙を流したり、それでもお互いに笑い合って最後の時をグラウンドで過ごしていた時。

瑳峨野に誘われ静かな裏庭に足を運んだ俺は、彼から率直な想いを告げられた。
真っ直ぐに俺の内側まで射抜かんとばかりに瑳峨野の瞳は濁りなく俺に向けられていて、思わず息を飲んだことは今でも鮮明に思い出すことができる。
そして押し潰されそうな空気の中、俺がコクリと首を縦に振ったことを始めに俺たちの交際は始まった。