一週間前と同じように噴水広場は齧りたくなるような夕焼け色で染まっていた。温かく、穏やかに心を浸すように。
「おまたせ、センチメンタルに浸っている高円寺君」
 高円寺は声のするに振り向いた。阿佐ヶ谷がいた。
「俺は別にセンチメンタルに浸っているわけではない」
「なら、夕陽を媒介にして私の裸を想像していたとか?」
 高円寺は言葉を詰まらせ、「それはない」と断言する。
 ふーん、と阿佐ヶ谷は首を傾げ、「一週間前はありがとう。高円寺君」と言った。
 改めて礼を言われると照れるが実際に怪異を取り除いたのは鬼瓦だ。なので、
「礼なら親父に言ってくれ」と高円寺。
「いえ、高円寺君にお礼を言いたいの。高円寺君のお父様はたしかに素晴らしい方だけど私を見る目が異性よりに偏っています。だからというわけではないけど、高円寺君には感謝しています」
 阿佐ヶ谷は濁りのない目を高円寺に向けた。この雰囲気は彼の苦手とする展開である。沈黙、静寂、焦燥、心が落ち着かず、夕陽に助けを求めても、解決策はでない。
「ああ、なんか親父が感情が本格的に戻るのには、一年ぐらいかかるみたいなこといってたぞ」
 またもや、ふーん、と阿佐ヶ谷は興味無さげな態度を示し、「私は愛想のない女子でいこうと思うの。なぜかといえば、高円寺君が私のような女性を好んでそうな気がするから」
 阿佐ヶ谷の言葉に、えっ、と高円寺は一歩後ろにのけぞる。阿佐ヶ谷がすぐに前進する。
「好きにしてくれ」と高円寺は照れと動揺を隠し、夕陽を指差した。
「眩しいわね、高円寺君」
 高円寺は阿佐ヶ谷の方を振り向いた。目当てのものが見れて満足だ。
「人って、眩しいときと笑ったときの表情が同じなんだ。これからは笑って欲しい」
 阿佐ヶ谷は目を丸くし、口角を上げた。
 二人を包んでいた夕陽が沈み、いずれは闇が訪れるだろう。それでも、眩しさと笑みが同化した、一瞬だけは脳裏に焼き付き、言葉を交わすことなく、結ぶ約束もなく、温かさと静けさだけをその場に置き去りにした。