ケータイ小説 野いちご

Love at first sight.

2

異動から二週間…まだまだ不慣れなところだけど木下店長はすごくいい人。一日の客数は前の店のおよそ十倍って言われてる、繁忙店へ…って言われた時は正直不安だらけだった。そんな忙しいお店でやっていけるのかって心配だったけど、すぐに頑張ろうって思えたのは名前も知らない常連客の男の人。
見ただけで上等そうなスーツやネクタイ、革靴に鞄…若そうなのにきっと仕事が出来て役職にでも就いてるんだろうな…。素敵な彼女とかいるんだろうな…。バイトの女の子たちが噂するカッコいい大人の男の人…バイトの子の話では店長の同級生なんだって。あんな素敵なクラスメイトいたら自慢になるよね。
大人で素敵な男の人…いつかお喋り出来るようになるかな?


「呉羽ちゃん…今日明日は休みだぞ」
「えぇ!?明日は休みですけど今日って…」

トントンとシフト表を指されてよく見れば今日の私の勤務は【H】つまりHoliday…休み…。

「すっ…すいません……なんか…間違えた…みたいですっ」
「みたいじゃなくて間違いだけどね」
「はい…」
「真面目な呉羽ちゃんに免じて、ラテとチョコデニッシュをご馳走しよう」
「え?」
「店内でゆっくりするといい。今日はお客としてね」

店長はトレイにラテとチョコデニッシュを用意してくれた。

「この時間は喫煙スペースを使ってくれるとありがたいんだけど」
「わかりました。ありがとうございます」

トレイを受け取って、隅のテーブルに座る。

私の勘違いが、この後であんな展開になるとは思わなかったけど――。




そうして今、私は噂の人…巽さんと県境にある自然公園に来てる。真っ黒なBMWの右ハンドル…助手席を開けて手を差し出してくれたり、そっと閉めてくれたり。エスコートされるのなんて初めてでドキドキ…こうやってよく女の人をデートに誘ったりしてる、のかな…?


レディーファーストなんて初体験だけど、やっぱり巽さんくらい大人だと当たり前なのかな?私は慣れないし何だか恥ずかしくてドキドキしっぱなし。優しく微笑んでくれたりすると心臓はドキドキを通り越して、もうバックバク!

ランチなんて当たり前みたいに私の分まで払うって言ってくれて。そんなの悪いからってちょっと言い合いになって…恥ずかしい思いさせちゃったかも…。その時は男の人を立てて、後からお礼するって言えばよかったかな……失敗しちゃった。
折角誘ってくれたのに…もうお店でしか会えないのかな…。

それから暫くはいろんな話をしながら公園を散歩した。日が暮れた頃、小高い丘に行く事になって。

「照明が少なくなるから足下には気をつけて」
「はい」

丘の上に着いて、巽さんは綺麗にプレスされたハンカチを下に敷いてくれた。

「ここに座って…ほら」

空を指されて見上げると……。

「わぁ……」

三百六十度どこを見ても星、星、星!照明が少ないのはこの為なんだ!

「すごぃ……」
「天然のプラネタリウムになるんだ」

隣に座った巽さんも空を見上げた。

「これを見る為に一人で来る事がある…」
「お一人でですか?」
「おかしいか?」
「素敵です…でも…巽さんが独り占めなんて狡いかも」
「そうだな…だから君にも見せたかったのかもしれない」

そんな風に言われてじっと見つめられたら…好きって言っちゃいそうになっちゃう……。

「…嬉しい…そんな風に言ってもらえて……すごく嬉しいです」
「そうか…よかった」

それから無言でただ星を見上げてた。それだけで何だか幸せで……。

「そろそろ送ろう」
「あ、はい」

立ち上がる時にハンカチを手に取る。

「ちゃんとお洗濯してお返しします」
「…頼むよ」
「はい」

そっと鞄にしまって、またゆっくり車に向かって歩き出した。また…来れたら…いいな。

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