ケータイ小説 野いちご

Love at first sight.

10

これは…巽さんと付き合ってる…って言うのかな?
毎日欠かさず会って、初めて私だけが休みの前日には巽さんが部屋の鍵を預けてくれた。だからいつものお礼に夕飯を作って巽さんの帰りを待ったり。

「常に傍にいたいが、帰ってきたら君が待っていてくれるのもいいもんだな」

互いに仕事の日は、閉店が巽さんの上がりより遅いから、巽さんはお店の巽さんの指定席で待ってくれてて。

「他の男に微笑まれるとさすがに妬ける、な」


巽さんと初めてシてからもう一ヶ月になるし、あれ以来シてないけど、巽さんの態度は変わらない。寧ろ過保護に独占欲を剥き出しにするような素振りすらあって……。

【釣った魚に餌をやらないのはお前の女との付き合い方の代名詞だろ】

店長の言葉が頭から離れない…いつ豹変するんだろ…。どうやって捨てられるんだろ…。毎日、会う度にそんな事考えてる。不安で…全然幸せな気分になんてなれない…。

付き合い始めたばかりの頃ってもっと毎日楽しくて、不安もあるけど嬉しいとか好きって気持ちの方が強くて…。早く会いたくて仕方なくなるのに。
巽さんに会うのが怖い…冷たくされたらどうしよう…いらないなんて言われたらどうしようってばかりで、幸せな気持ちになれない……。好きだけど…すごく好きだけど怖い…。

「呉羽?」
「あ……」
「俺!覚えてるか?」
「…うん」
「あ~…悪ぃ…何か…気安く声かけちまって」

レジ前に立っていたのは一年前まで付き合ってた元彼の鬼頭直哉…地元の同級生で、直哉が仕事でこっちに来てから遠距離になって、自然消滅した…。

「お前、こっちに来てたのか?」
「うん。このお店に異動になって」
「俺の会社、すぐ側のビルなんだぜ?」
「そうだったの?私まだここに来て二ヶ月もならないから…」
「俺も支店から本社の営業に栄転になったばっかり」

久々に見た元彼は少し逞しかった。直哉はそれから私に名刺をくれた。

「…巽、産業?」
「ああ。うちの会社知ってるのか?」
「…うん」

知ってるも何も…。

「…呉羽?」
「あ…巽さ……」
「社長!」
「…確か…最近本社に配属された…」
「はい!営業二課の鬼頭直哉です」
「…彼女とはどういう関係だ?」
「昔、付き合ってたんですよ」

一瞬…表情が険しくなったような気がした。でもそれは気のせいだったみたいで…。
直哉は調子に乗って当時の昔話や遠距離で自然消滅した事を話し始めた……そんな話しないで!巽さんに似合わない事を再確認しちゃうから…。

「そうだったのか…もう終わっているんだな?」
「一年前くらいです」
「それならいい…気安く近寄らないでもらえるか?今、呉羽は俺のものだ」

直哉と巽さんとの会話…【今】を強調したように聞こえた。今は…であって、明日はわからないとでも言われたような気がした…。

「社長が…呉羽と!?」
「何か問題でもあると言うのか?」
「社長は洗練された都会生まれ都会育ちですけど…俺や呉羽は…」

僻地の田舎……確かに田舎と呼んで間違いないほど長閑な土地が私の郷里…。お国訛りは辛うじてないものの過疎は進み、ローカル線しかない鄙びた湯治町で都心部まで何度も乗り換えて、片道二時間以上はかかる。
こっちに出て来るまで必死で貯金していたお金の大半を、見栄の為だけにファッションやコスメに費やした。こっちで暮らしてますって顔しながら、中身はただの田舎娘で……。
そんな私が巽さんみたいな人と付き合えるわけない…どんなに綺麗な格好したって、釣り合いが取れるわけじゃない…。

「…次の査定と人事異動が楽しみだな」
「っ…社ちょ…」

巽さんは私を見る事もなく出ていった……もう…終わり?私が田舎者だってわかっちゃったから?

「く…呉羽っ!ホントにうちの社長と付き合ってんのか!?」
「…わかんない」


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