ケータイ小説 野いちご

Love at first sight.

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聞きたくなかった…でも聞こえた話に、思わず耳を塞いでた。

【お前は手に入ったらそれでいいかもしれないが、あの子は傷付く……釣った魚に餌をやらないのはお前の女との付き合い方の代名詞だろ】

大学の同期だった店長の言葉…私の事を言ってるのがわかって、すごく悲しくて……。巽さんがそんな人だなんて思いたくないし、そうであって欲しくない!
だから私にも優しいの?他の人にもそうしてきたの?
私…嫉妬しちゃってる…私【に】優しいんじゃなくて、私【にも】優しいって事…。

「…どうした?」
「え……?」
「黙りだ」
「ぁ…さ、さっきあんなに待たせちゃって…あの…すいません」
「そんな事、気にしていたのか?木下と昔話をしていたし、大した時間じゃなかった」

昔話……私も返事をしちゃったら、その中の一人になっちゃうんでしょ?巽さんの過去に……。なりたくないよ…そんなのイヤだよ……。


夕食は中華で。美味しいはずなのに、さっきの事ばかり気になって、全然味なんてわかんないっ。
ウェイターさんを差し置いて椅子を引いてくれたり、小皿に取り分けてくれたり……何人の人にしてあげたの?私だけにじゃないんでしょ?
何とか平静を装って食事を終えると、真っ直ぐ家に送ってくれた。
また会って欲しいって言われて…ホントはすぐにでも返事したかったけど…怖くて。

待ってくれるって…。

私は極力休みを減らす為、指導員資格を取る事にした。バイトさんにやり方を指導する為にもうちの店は資格がいるから。
休みは勉強とか講習に出る事が増えるって伝えたら、メールで連絡をくれるようになった。そんな気遣いまでが辛くて。
資格試験の前日に電話をしてみた。

【君なら大丈夫だ…絶対に。俺が保証するよ】
【おやすみ…明日一度も会えないのが淋しいよ】

ダメってわかってるのに…好きだよ…巽さん……。



翌朝早く家を出て新幹線に乗る。移動は一時間で本社に着いた。
筆記と面接と実技。面接では口頭での指導の仕方、実技は実際に経験のない人に指導する。結果は受けて一時間でわかる。
手渡された成績表はAからEの五段階。Aが規定数あれば合格……右下に【合格】の赤字……受かった!

本社を後にしながら店長にメールして、巽さんに電話をした。
ワンコール終わる前に声がしてびっくり!

「あ…ごめんなさい、今…大丈夫ですか?」
『ああ…どうだった?』
「受かりました♪」
『おめでとう』
「巽さんが大丈夫って言ってくれたからです」
『お祝いをしよう。今日はいつ戻る?』
「あ…今から新幹線に乗るので、そっちには一時間くらいで…」
『駅まで迎えに行く。着いたら連絡をくれ』
「でも…」
『嫌だったか?』
「…そういうわけじゃ…」
『それなら一度自宅に送ろう。用意してからならいいか?』

何だか積極的に感じるのは気のせい?

「わかりました…駅に着いたら連絡します」
『そうしてくれ…待ってる』
「はい」

会いたいけど…会いたくない……いっそ嫌ってくれればいいのに…。なのに私…会えるのが嬉しい…すごく嬉しい。
付き合いだした途端に興味をなくされるのわかってても…それでもいい…って想えるくらい…好き、なの。

新幹線の中で私は覚悟を決めた。こんな素敵な人とは二度と会えないだろうし…思い出に…なればいいな……。

自宅近くの駅に着いた私は、ロータリーに出てから電話するつもりだった。改札を抜けて携帯を取り出し、ロータリーに向かう。電話する前に何気なくロータリーに目をやると黒いBMWに凭れてタバコを吸っている巽さんがいて…!

「巽さんっ!」
「おかえり」
「いつから…ここに?」
「大した時間いたわけじゃないから心配いらない。お祝いにホテルの和食のコースを押さえてあるんだ」


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