ケータイ小説 野いちご

Love at first sight.

7

【異動してきた時からお前が目を付けてるのは知ってる…頼む……これ以上近付かないでくれ…】
【お前は手に入ればそれでいいかもしれないが、あの子は傷付く……釣った魚に餌をやらないのはお前の女との付き合い方の代名詞だろ】

木下の言葉にグッと詰まる…。
手に入ればすぐ興味を失うところがある俺は、仕事以外では長く付き合いの続く相手はいなかった。そこに行き着くまでのプロセスが楽しいと思っているせいだ。だが……彼女はそうではないと…俺の中の何かが訴えた。
接点を失う事を恐れる俺が……。
この手に掴みかけた彼女との時間を…失う事が怖いと。


一番最近の女は一ヶ月前に興味を失った。すでに名前すら覚えていない。
よく考えてみれば携帯に名前を登録したのは彼女が初めてだ…【相模 呉羽】…ディスプレイに表示された名前だけで、こんなにも落ち着かない。こんなにもその響きが…愛しい…。
彼女を構築する全てまで無条件に愛せてしまいそうだ。

ある意味身内のようなものになる木下が心配するのも無理はないと思いながら、木下に苛立つ。彼女を想っているのではと邪推してしまう。邪魔だと…排除したくなる。

彼女は俺を嫌っているようには見えない。常連客だからかもしれないが、それだけでプライベートまでこうして付き合うとは思えない。
ならば勝機はある…巧くやればいい。これまでとは違った方法をとればいいだけだ。
俺自身と現在の地位に惹かれる女には、望む通りに与えてやれば簡単に落とせた。それは当たり前だと思っている。結局、最終的に女が見るのは外見と経済力だ。落ちるまでに…いや数回会えば、そのくらい見抜く目は持っている。
しかし彼女は…些細な事に喜ぶどころか反論し、申し訳なさそうにする。金銭感覚のとち狂った欲だけの女とは違い、堅実に稼いで稼ぎに見合った暮らしをしている。
素直で純粋な考えの持ち主で、柔らかく打算のない笑顔で…。


彼女はどんな愛し方をするのか……きっと優しく包まれるように愛してくれるだろう。裏表のない純粋な…ただ愛しいと…そのぬくもりだけで溢れんばかりに満たして、心を砕いて癒してくれるはずだ。
これまでにそうされた男が―きっといたんだろうが…―そんな過去の存在すら疎ましく感じる。俺だけのものだと…覚えのない考えに支配されていく…。
ただ闇雲に引き寄せて君が愛しいと囁いて、全てを俺だけに曝させたい…ダイレクトなぬくもりから漏れる吐息で…知らない全てを知りたい。
姿がないだけでこんなに…早く会いたいと想ってしまう。
…こんな俺を…君はどう思うだろう?これほど近付いて、プライベートな彼女の素顔を見てしまったら、もうただの常連客ではいられない…。
全力を以て彼女をこの腕に……。そして彼女にも俺を想わせたい。
次から次へと彼女に対する欲求は尽きない…だが彼女に低俗な男だとは思われたくはない。

どこまで自分を抑えられるかわからないが、強引なやり方はしたくない。自然な形で俺を愛して欲しい。俺自身を――。


「手間取っちゃって…すいません」

申し訳なさげに戻った彼女が告げた。綺麗に包装された箱を紙袋に納める。これを祝いの為とは言え、女であろうが東雲にやるのが惜しい。

「領収書はどうされますか?」
「ああ、頼む。前株【巽産業】で」
「はい」

少し丸みががった文字で日付から社名、金額に彼女のサイン…経理に出さずに置くか…。

店を後にする際、背中に木下の視線を感じた。先程の俺の言葉には木下も驚いたのか、あれから互いに黙ってしまった。
時間もちょうどよかったので、彼女と共に食事に向かった。妙に口数の減った彼女…訊けば袋を探すのに待たせた事を心底申し訳ないと思っていたらしい。
気遣いがよく出来るのはサービス業をしているせいだと…思っていた……。


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