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「琳ちゃん、オレさー」
白い布肌(胸があるから女)のマネキンに跪いてヒラヒラのシースルーを巻き付ける大きな手に、待ち針を摘ませる。
「この日程の詰め方には、意図があるんじゃないかと踏んでるんだけど」
待ち針を手にした手首には、すでに針の抜け去った針山がただのクッションになってはまっている。
その様を眺めながら、しかし手は止めずに小田桐君が顔をしかめる。
私はその横顔を眺めながら、しかしボーッと突っ立っているのではなく、次の布を持って待機しているのだ。
「ふーん。どんな意図?」
手伝えることなんかあるのかな…と内心苦しかったんだけど、
いざ作業に移ると、ある、ある。
今は大体使うことに決めた布たちを合わせて、実際のバランスを見ているところ。
「このコンテストで優勝者を留学までさせる意味は……たぶん将来の担い手を育てるためだ。つまり世界的に活躍できるデザイナー、となれば、まあそりゃ、ハードワークとか時間とかに強くなけりゃってこと。それができるか、審査の一貫として見てんだと思う」
なるほど。
製作状態からすでに篩にかけられてるってわけね。
夏の服をつくるのと、『その人(私)に一番似合う服』のデザイン・素材選びは同時進行だ。
2着同時につくったことがないから、かなり"頭がヤバイ"らしい。
どんな状態なのか、私にはさっぱりだ。
「小田桐、もう2時間はぶっ続けでやってるだろ。休憩も大事だぞ」
「え、もうそんなやってます?」
裸のままのマネキンが並ぶ列から1人抱えあげた新先輩が通りすがりに言った。