「おはよう、梓」


低い声が頭の中で響く。

ゆっくりと目を開ければ、頭を撫でて早く起きるんだと急かすように私を揺さぶる。

あと少し、もう少し。

言葉は出ないが、彼には伝わっているようだ。


「朝飯、梓の好きなホットケーキだぞ」


私の一番好きなものだ。

起きないわけにはいかず、ノロノロと起き上がると彼から甘い匂いがした。

蜂蜜をたっぷりかけて食べよう、生クリームがあるのならそれも使って食べたい。

想像しながら急いで着替えてリビングに向かう。


甘い匂いと彼の慌ててる声が聞こえる。

きっと焦がしたんだろう、同時に何かしようとするからだ。


不器用なんだから、ひとつひとつ片づければいいのに。


リビングに入ると、お皿の上には少し焦げたホットケーキ。


椅子に座って彼が作ってくれた朝食を眺めていると、ホットケーキの上に生クリームとイチゴが乗せられた。


いただきますをしてから一口食べてみる。

ちょっと苦くて、でも美味しくて。


「美味いか?」


大きく頷いてみせると、嬉しそうに笑った。

いつもいつも、私の事を気遣ってくれる。いや、同情しているだけなのかもしれない。