この街の何処かには、今は廃墟と化した、ささやかなほどに小さな文化ホールがある。

 その建物の中からは、

 べん、

 べべん、と。

 琵琶か三味線か。

 とにかく和楽器の旋律が、しんしんとこだましていた。


“ ……あや、懐かしき、大江山。
鬼の子として世に生まれ。
悪しきは得と教えられ。
一人前の鬼となり。
ついには俺の、右に出るものなし。

 我が名は、酒呑童子。

 女は攫ひて夜に回し、昼にはとっくに胃の中さ。
金の価値など知りゃせんな。
俺の後ろにゃ、多くの鬼さ。

 百鬼羅刹の支配者よ。

 ところがどうした、今の世じゃ。

 酒呑童子も、ただの優男か。
人間ゴッコも、そこまでぞ。

 人のおなごなど、喰うてしまえ。

 お前こそ、真の鬼の子じゃ。

 人でも殺せば目覚めよう。
己が鬼だということに。

 のう、酒呑童子よ。

 外の怪なぞ、殺し尽くしてしまえば良いさ”


 ピアノのオルガンに乗った、20代後半ばかりの男が、大きな琵琶を腕に抱き、乱暴に引き鳴らしながら歌っていた。



「お前は、もう、人ではないのさ」