ケータイ小説 野いちご

シスター・オルランドへの手紙

8 伯爵令嬢と尼僧

――それは、去年の春遅くのことだった。

********************************************

15


いいえ……平気。
オーガスト兄さまが、なにを仰ったって。わたしは大丈夫。

心を落ち着かせようと、リルは懸命に努める。

――レディ・ユージーニア・リリアン。決して間違えてはなりません。修道院は、現実のつらさから逃れるための場所ではないのです。

シスター・オルランドからの手紙の一節が、リルの頭をよぎる。
いくどもいくども、繰り返し読んだ手紙だ。

ええ、シスター・オルランド。
つらいから、逃げ出したいから、そんな気持ちではないのです。

……正直に申し上げると、最初は。
そうでなかったとは言えません。でも、今は違います。
俗世の何に捕らわれることなく、ただ信仰を深めたいのです。天のお父さまに、イエス様にお仕えしたいのです。

修道士たちは、しばしばこう口にする。彼らが心を決めたきっかけ。

それは『呼ばれた』からなのだと。
……ある日、神の声に呼ばれたのだと。

わたしは『呼ばれて』いるのかしら、『呼ばれた』と感じたことがあったかしら。
日に幾度も、リルはその問いを繰り返し続けて来た。
でもまだ、いまだに神の声を受けたという確信は得られないのだった。

ふと、テディが寝台の上に置いていった二冊の本に、リルの指先が触れる。
うち一冊は、まだ読んだことがなかった。

伝道のため世界に散った修道士たちが、各地に建立した様々な修道院を紹介する本のようだ。

リルは、そっとページを繰ってみる。


< 24/ 97 >