ケータイ小説 野いちご

シスター・オルランドへの手紙

6 ドン・ファンとフェアリーテール

――それは、「騎士道的な振舞い」とでもいえそうなほどに、まったくもって礼儀にかなった去り方だった。

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12


寝台から出て、朝の祈りを捧げていたリルを、すかさずメイド頭が見とがめた。

「まあ、お嬢様。先生が、今日は一日、寝台においでになるようにと仰ったではありませんか?!」

そして、リルはすぐさまふたたび、羽毛布団にくるみこまれてしまう。しかたなく、寝台の中で祈祷の続きに励んでると、ノックがあった。

リルは、声に出してノックに応じることはできない。
だから家の者は、返事がなくとも、そっと部屋の扉を開けて中の様子をうかがってから、入ってくるのだ。
なのにノックの後に廊下から聞こえてきたのは、男の声だった。

「レディ? ……リル? 入ってもいいかな」

そう訊かれても、返事はできない。
声の主は、すぐさま大きく戸を開けて部屋へと入ってきた。

「気分はどうだい?」
朗らかな声音で言いながら、熊髭の大男が寝台へと近づいてくる。
その姿を見上げ、リルは祈祷書を閉じ、両手でぎゅと胸に抱きしめた。

熊髭の大男、テディは、寝台の傍にあるダマスク織の肘掛椅子に腰を下ろす。
「おや、もしかしてお祈りを邪魔しただろうか? すまない」

目を伏せて、リルは、小さく首を振った。

……気がつかれていなくったって、仕方ない。声に唱えることはできず、ただ心の中で祈るだけなのだから。

ふむ、と。
テディは、寝台の上に座る目の前の若いレディを眺めやる。

部屋着とはいえ、今日のリルの服は、昨日のひどく粗末なドレスより、ずっと愛らしい。 
繊細なレースが襟元に幾重にも縫い付けられているクリーム色の絹。ふんわりとした袖口もふんだんにレースで縁取られていて、それがリリアンの佇まいを、どこか妖精めいたものにしている。

まるで尼のよう。
オーガストは吐き捨てるように、そう言ったが……。

耳元でふっつりと短く切りそろえられたリリアンの金の髪は、大きく渦を巻いて頬に掛かっている。うなじもあらわなその様子は、髪を結い上げているように見えなくもない。
オーガストが言うほど、そう悪い感じじゃない。
むしろ、まだどことなく幼さを残すリリアンの顔立ちを、引き立てているともいえる。

くるくると渦巻くあの巻毛には、小さな白薔薇が似合いそうだな……。

そんな風に、テディは思いを巡らせる。

「傷は痛む?」
髭だらけの顔が、リルを覗き込んだ。

その大きな焦げ茶の瞳は、川べりの石のようにしっとりとうるんでいる。眉は太くも細くもなく、綺麗な形。鼻筋は、すっきりとまっすぐだ。

髭にばかり気を取られていて、気づかなかったけれど……。
このひとの顔立ちは、それほど「熊みたい」というわけじゃないみたい。

男を見上げながら、リルはそんなことをぼんやりと考える。


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