ケータイ小説 野いちご

シスター・オルランドへの手紙

4 気難し屋と修道女

――熊の乗馬……。

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ダチェット伯爵夫人アン・マリアの冷静な指示のもと、メイド達が、次々に裏階段を上って行く。

そして、妹をその腕に抱えたまま立ち尽くす夫にも、アンのピシリとしたひと声が飛んだ。

「オーガスト、さあそのまま、リルをお部屋に運んで頂戴、早く」

ダチェットの(カントリーハウス)の大階段を、急ぎ上っていくオーガストとアンの後ろを、熊髭の大男もまた、ついて上がる。

部屋の寝台はすでに調えられており、メイド達が、着替えやタオルを手に控えていた。

執事がアンへ、そっと耳打ちする。
「医者の手配はいかが致しましょう、奥様」

「ええ、お呼びして」
リルを寝台に横たえるオーガストを見つめながら、アンが応じた。

アンの指示でメイド達が、リルの傷口を拭き、破れたドレスを着替えさせようと寝台の周りを取り囲む。
そして、夫オーガストとテディを振り返り、アンが言った。

「さあ、役に立たない殿方は、ここをお出になってね。大きな身体で突っ立っていられても、邪魔で仕方無いの、あら? なにもあなたまで付いていらっしゃることはなかったのに、テディ?」

辛辣なほどに率直なアンの物言いに、オーガストが苦笑する。その横で、テディが肩をすくめた。

「いやいや、少しは何かお役に立てるか思ってね、アン。これでも一応、医学部に在籍したことがある」

「『いただけ』だろう?」
オーガストがすかさず口を挟む。
「君が乗馬と昼寝以外のことをしているところなど、たえて見たことがなかったがね」

寝台の上で、うとうととユージニア・リリアンが目を開く。

……乗馬?

リルの脳裡に、ふと、ごく幼い頃に見た屋外テントの曲芸のようすが思い浮かんだ。小熊がポニーに跨り、大きな熊が玉乗りをしていた。

熊の乗馬……。

と、テディが小さく声を上げた。
「おっと、すまない、机のものを落としてしまった」


詫びながら、ペンや紙片を拾い上げるテディを手伝い、オーガストも床の上に腕を伸ばす。

「……手紙?」
オーガストが独りごちた。
眉間にギュッと皺をよせ顎に親指を押し当てて、手にした便箋に目を走らせる。

すかさずテディが、脇からそれを覗き込んだ。

便箋を持つオーガストの手が小刻みに震え出す。

「リリアン……!」
オーガストが、寝台に近寄ろうと足を進める。

すかさずアンが、その前に立ちふさがった。
「オーガスト、静かになさって。それに、一体いつまでここにおいでになるおつもり?!」

「……静かになどできるか!」
うわずり震える大声で、オーガストが言い返す。

「リリアン!! どういうことだ、この手紙は。『修道女の誓願』だって?! なにを馬鹿なことを……リル!」

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