“私達”は岩崎さんの行きつけらしいバーへ連れて行ってもらった。こじんまりとしたお店で、薄暗い店内には私達の他にはカップルが一組いるだけで、静かで落ち着いた雰囲気のお店だ。


“わたし”はバーテンさんに色鮮やかなカクテルを作ってもらい、それを数杯飲んでほろ酔い状態。もちろん私も。岩崎さんはウイスキーをロックで飲んでいるけど、ちっとも酔った様子がない。かなりアルコールに強いみたいだ。


岩崎さんは実家暮らしで、2つ上のお姉さんがいるらしい。“私達”はある地方から一人で上京し、アパート暮らしだと説明したら、岩崎さんは変な事を言い出した。


「ルームメイトがいるんじゃないか?」

「いいえ。“わたし”は一人暮らしです」

「そうなのか? ああ、そうか。同僚がいるよね? 君によく似た子がさ……」

「同僚ですか? 同僚と言えば高橋真由美ちゃんですけど、“わたし”とは全然似てませんよ? ほら、剛史さんも会ってますよ。あの日のカウンター当番だった子です」

「……ああ、あの子じゃなくてさ、いるだろ?」

「さあ……。思い当りません」

「そうかなあ。あ、今日も俺は会ったよ。ロビーで、君が来る前に」

「そうなんですか?」

「この間もさ、総務で最初に対応してくれたのはその子でさ、確か喫煙所で待ってる時に君が来て交代したんじゃなかったかな」

「はあ……」


『剛史さんが何を言ってるのかわからないよ……。“わたし”が誰かと交代って、どういう事だろう』


あっ。もしかして……

『どうしたの?』


ばれてるのかも!