まず目につくのは『鶴の間』という宴会場だった。

 宿泊者の朝晩の食事はもちろん、温泉やゲームセンターのみの利用者が食べられる軽食なども置いてあり、賑わった場所だった。

 もちろん今はしんとしているけれど。



 隣は広い厨房になっている。

 電気とガスこそ止まっているものの、食器や調理器具の類は棚にきちんと収まり、蛇口を捻ると赤錆びた水が出て、しばらくすると透明に変わった。

 今でも流水するのは、水道水の代わりに地下水を汲み上げているからだろうか。

 良く分からなかったし、どうでも良いことだった。

 銀色の調理場に薄っすら積もる埃を指先でつうとなぞりながら、私は先へと進んだ。