「大変だよなぁ、スカウト」

「ですよね〜」


 解散した後、僕とトラスキンさんは犬たちのブラッシングをしながら溜め息をついた。

 他の職員は定時の散歩に連れていったりと、各々の仕事をこなし、今飼育室には二人しかいない。


「なあ、リサ。おまえみたいな子にはどこに行ったら会えるんだい?」


 割りと初期からいる優秀な犬リサのちっちゃな頭を撫でながら話しかける。


 きゃん


 クリクリしたおめめで僕を見上げて返事をしてくれるが、残念ながら僕に犬語はわからない。


 けれど、親愛を注いでくれるその眼差しに愛しさがこみあげてくる。


「ああもう、リサはかわいいなぁっ!」


 ぎゅっとリサを抱きしめると、トラスキンさんに頭を叩かれた。


「マジメにやれ」

「すみませーん」


 犬たちの健康のためにも、ブラッシングも大切な仕事だ。

 リサを放して、ブラッシングを再開する。

 リサが気持ちよさそうだと、こちらも嬉しい。


「ところでトラスキンさん、本当に青い目をしてハ長調で吠える犬を連れてくるんですか?」


 寝そべる白い犬アルビナのブラッシングをしているトラスキンさんが、なに言ってんだこいつと言う目で見てくる。


「そう言ったんですから、連れてきますよね?」

「…………オマエなぁ」


 呆れ顔のトラスキンさんはブラッシングの終わったアルビナを柵に戻すとスメラヤを連れてくる。


「オマエもリサばっか毛づくろいしてないで、ちゃんとみんなしてやれよ」

「わかってますよ」


 最後にリサの毛並みを一通り整えると抱き上げて連れていく。


「で、どうするんです?」


 次にデジクをブラッシングしながら、また話しを持ち出す。


「しつこい奴だな……ハ長調で鳴くかは知らないけど、青い目の犬ならいるよ。こういう時のために、餌付けしてたから」

「へえ、そんなことしてたんですか」


 さすが先輩だ。

 僕はトラスキンさんとは違い、なにもしていない。


「ただ、メスかどうかはまだちゃんと確認出来てないんだよなぁ。毛が長いせいであるようなないような感じで……無理に確認しようとしてまた警戒されるようになっても困るし」


 溜め息をつくトラスキンさんに、僕はデジクをブラッシングしながら別の犬のことを考えていた。

 最近見かけなくなった、あの子犬のことを……