(南斗晶)

試合が再開されました。


「なんで立った?」
田山が、健介君をにらみつけながら聞きます。


健介君は、ぎこちなく笑いながら答えます。
「決まってるだろ?戦うためさ」


「ふざけるなっ!」田山が吠えます。「変な見栄張ってんじゃねえぞ!素直にギブアップしろ!骨折しているヤツ相手に、戦えるか!おれはそんな悪趣味じゃない!」
「怖いのか?」
健介君は挑発的な目をして聞きました。その顔は、汗でびっしょりです。
「なんだと?」
田山が眉間にしわをよせます。
「足の骨の折れた俺と戦うのが怖いのか?情けねえ。プロレスも大したことねえな」
「…………」
田山の表情が、すう、と変わりました。静かな目付きになっていきます。


「おうおうおうっ!田山!安い挑発に乗るなよ!」
私の横で、アトミック南斗が大声をあげます。
田山は、ため息をつきました。
「社長の言う通りだ。はは、そんな見え見えの挑発に俺がのるとでも思ったか?」


どごっ


言い終わった瞬間、田山がドロップキックを放ちました。


会場がどよめきます。


健介君は、キックを胸に喰らい、後ろに飛ばされましたが、ロープをつかんで倒れるのを防ぎました。


「のったよ」田山は両手を広げながら言いました。「見え見えの挑発だってことは、分かってるさ。でもプロレスへの侮辱は許せねえ。足をもう一本折る。覚悟しろよ」


「……一撃だ」
ふらつきながら、健介君が答えました。


「あ?いまなんて言った?」



「この一撃に、全てをかける」
そう言って、健介君は、握った拳を前に掲げました。