(代々木健介)


「…………くぅっっっ」
悲鳴を必死で噛み殺した。


俺は、上に乗った田山の足を全力でつねった。
「痛てっ」
田山の腰が浮くと、俺はすぐにそこから、逃れ、転がりながら、リングコーナーまでさがった。
そして、立ち上がった。


激痛が走った。


「がっ」
倒れそうになる。しかし、こらえる。右足だけ少し浮かせて、案山子のように左足だけで立つ。


足の骨を折られた。見事に折られた。


痛い。すげえ痛い。すぐさま試合を放棄して、絶叫しながらリング上を転げ回りたい。腿が熱を持ち、じんじんと腫れてくる。


「よく立てたな」
田山が感心した表情で言った。
俺は、無言でにらみ返した。
「何が起きたかわからないって顔だな。なんで、おれがあんなに動けたか、分からないんだろう?いいぜ、種明かししてやるよ」
田山は近寄ってくると、小声で言った。
「まあ、単純な話さ。俺は、おまえの空手を喰らって、やられたふりをしていたんだよ」
「……なんだと」


ふざけるなと思った。


確かな手応えはあったはずだ。


あのダメージの蓄積による、鈍くなってゆく動き、青ざめる顔、汗、表情、目付き。あれが全て演技だったというのか。信じられない。


「俺は試合前の一週間、いままでのおまえの空手の試合のビデオをたくさん見た。そして、お前が倒してきた相手のやられ方を観察して、それをそっくりそのまま演じられるようにした。そして、それをおまえの目の前で演じてみせたのさ」
「…………」
「おまえは、おれがいままで倒してきた奴らと、同じようにダメージを喰らっていると錯覚した。そして、勝てると思いこんだ。その慢心が大きな隙を生み、俺のプロレス技を全て喰らう要因となったってわけさ」
田山の言う通り、俺は勝てると確信していた。田山はもう満足に動けないと思いこんでいた。


しかし、おかしい。