(代々木健介)

勝ったと思った。


確かな手応えがあった。


田山の攻撃は、何度も俺の肌を打っていたが、狙いやタイミングが甘く、大したダメージは残さなかった。逆に俺の攻撃は、何発もいいのが、入った。かなり効いているはずだ。


実際、田山の目の色が微かに揺らいでいる。動きの速さも落ちている。
今までの、空手の試合で何度も体験してきた、勝ちのパターンにうまく持ち込んだようだった。
もうすぐ、ダメージによる隙が生まれるはずだ。
そこに、とどめの一撃を加えれば、試合は終わる。


「…………」


少し、つまらなかった。
プロレスとの戦いを期待していたのに、結局、付け焼き刃で覚えたであろう空手の相手をすることになってしまった。
なぜ田山聡は、このような愚かな選択をしたのか。


田山の腕のガードが微かにさがった。
俺はその隙を見逃さなかった。
「しゃっ」
力をこめた前蹴りを、田山の腹にぶちこんだ。
腹筋に深くめりこむ感触を足裏に感じた。
田山は、ぐっとうめいくと、腹を抑えて膝をついた。
内臓に重い衝撃を感じているはずだ。
もう、立ち上がれまい。
「とどめだ」
俺は、田山の顔面に最後の下段蹴りを当てようと、かまえた。


その時だ。


「フランケンシュタイナーだ」


突然、田山が、意味の分からないことを呟いた。
「何を言っている?」
「いまからおまえに喰らわす技だよ。フランケンシュタイナーっていうんだ。覚えとけ」


声に、疲れが無かった。


「なんだと……」
おれがとまどった瞬間、


田山が跳躍した。