(代々木健介)

ゴングが鳴った。


俺が構えると、田山が少し近付いて笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「よう、あんた、晶のどこに惚れたんだ?」


……南斗さんのことか?


「何を言っている?」
「何を言ってるって、なんだよそれ?おまえら恋人同士なんだろ?」
おれは顔を赤くして、動揺した。
「ふざけるな!それはおまえらが勝手にでっちあげたアングルとかいうやつだろう?」
「はあ?何言ってんだおまえ?」
田山はいぶかしげな顔になった。
「それはこっちの台詞だ。おれと南斗さんは、別にそうゆう関係ではない」
田山の目に、困惑の色が浮かぶ。


「ちょっと待てよ。おまえ、晶に付き合ってくれって言ったんじゃなかったのか?」
「……修行に付き合ってほしいとは言ったがな」
「修行にって……」
田山はうつむき、しばらく何かを考える仕草をした。そして、急にため息をつくと、わしわしと頭をかいてつぶやいた。
「そういうことかよ。あの馬鹿野郎、とんでもない勘違いしやがって」


俺は少しいらついてきた。
「おい、さっきからなんなんだ?もう試合は始まってるんだぞ」
「ん?ああ、そうだったな。悪い悪い」


田山の姿が消えた。


俺は虚をつかれた。


気がつけば、背後に回りこまれていた。羽交い締めにされた。


後ろから、田山の声がした。
「今日は本気で戦うふりして、わざと負けるつもりだったんだけどな」
「なっ?」
「事情が変わった。おまえが勝って、そのあと晶が勘違いに気付いたら、あいつを泣かせちまうことになる。悪いが勝たせてもらうぜ。そして、晶とおまえの関係を断ち切る」
「何を……っ!」


体が持ちあげられた。


視界が。天井が下に、リングが上に


いや、俺の体が上下逆にされて


やばい


これはあれだ



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