(南斗晶)

翌日から、私は練習メニューを強化しました。


来週の試合に勝つためです。


ガチの試合は、初めてです。プロレスとは違う舞台で、自分の肉体がうまく動いてくれるかどうか。正直、自信がありません。


それでも試合を受けたのには、理由があります。


健介君に、想いを伝えたかったのです。


健介君から告白してくれて、私はいま彼とお付き合いをしていますが、まだ一度も、私のほうから好きと言ったことがありません。


何度か言おとしたのですが、例によって緊張してプロレス技を出してしまい、うやむやになってしまいます。


この前のデートでは、体を張ろうとまでしてみたのですが、いまいち健介君には伝わっていないようでした。お父さんに邪魔されましたし。




好き




言葉にすると、たった二文字なのに、口に出すのにどうしてこんなにも勇気が必要なのでしょうか。


健介君のお父さん、倍達さんに試合の話を持ちかけられた時、私はあることを思いつきました。


プロレスで、好きという想いを伝えられないだろうかと……。


プロレスは、リング上の戦いで自分の生きざまを表現するエンターテイメントです。


私は普通の女の子ではありません。流行りの服や音楽には、くわしくないし、お化粧もうまくありません。料理や裁縫もさっぱりです。


でも、プロレスには自信があります。


好きと伝えたくても、プロレス技しか出せないのなら、いっそのことプロレスを使って好きと伝えてみよう。


そう考えて、私はこの試合を受けることにしたのです。