【ク】 最期





 ホーム上には何百何千という真っ黒い腕や手がびっしりと敷き詰められている。

 黄色い線のところぎりぎりまで。

 敷き詰められたというよりは、誰かを掴もうとして、大きく手を開き、指を曲げ、ホーム上にいる人たちを探しているようにも見える。



 爪の無い指、

 あるべきはずの本数が無い指、

 焼けたように黒い手、

 その腕や手は、線路上に立ってホームに上がろうとしている無数の人のような黒い影から伸ばされていた。


 
 その中には綺麗な白い手も、ある。


 骨だ。




「なに......これ」


 体は抵抗空しく前へ進む。



「みーんなここで死んだ人たち」

「...うそ」

「本当。いろいろなしがらみを背負って、こっちに来た」

「やめて」

「私のように、誰かに殺された人もいる。ねぇ、桜ちゃん」

「私は...私は何もしていない」

「線路に降りた私を遠くの方で見てた」

「違う」




「私はあなたに殺された」

「違う! それは違う!」





「もういい。もう少しこっちに来て。よく顔が見えるから」


 意地悪に笑いながら桜の背中を押した。


「やめて! 押さないで!」


 線路上にいたり、後ろにいたり、もう何がなんだか分からなくなっていた。




 遅い。





 既に体はそこまで、黄色い線の境界線まで進んできている。