仕事を探してすぐに見つかれば、今まで派遣社員なんてやってない。

「疲れたなぁ……」

数年ぶりにスーツに身を包み、駅を歩いていた。

書類選考が通って面接を受けたのはよかったけど、ボロボロで受かる気がしない。

「あーあ、就職が決まるまでここには来ないって思ってたのに……」

ふと気がつくと、樹さんの店の前まで来ていた。無意識に心は彼に癒されたいと願っているようだ。

樹さんは「辛くなったらいつでもおいで」って言ってくれたけど……。

「うーん……やっぱり、帰ろう」

帰ってまた仕事探しをしよう。そう思っていると「千穂ちゃん?」と、柔らかな声に呼び止められた。

「樹さん……!」

振り返ると、ゆるいパーマがかかった黒髪に、艶っぽい瞳をした樹さんがいた。

看板を手にしているので、これから開店らしい。

「どうしたの? 店においでよ」
「いえ……今日は……」
「今日はダメ? そうじゃないでしょ。今日だからこそ、おいで。というか、俺が放っておけない」

樹さんは切なげに瞳を伏せると、私の手をそっと取った。

私は彼に手を引かれるがまま、階段を上がり、『Caféサプリ』へと入る。