ケータイ小説 野いちご

ヒミツの隠れ家

第一回



昼から降り始めた雨は、会社を出るころには止んでいた。ムンとした湿気のせいで肩まで伸びたストレートの髪が広がっている。

「……これから、どうしよう」

もちろん髪の心配ではなくどうやって夜を過ごすかという心配だ。

里崎千穂(さとざきちほ)、二十八歳未婚、派遣社員で実家暮らし。昨日、三つ下の妹の結婚が決まった。

それはめでたいことだからいいけれど、「千穂はいつなの? 就職はどうするの?」という親からの質問にうんざりしている。

きっと帰ればまた同じことを言われるのだ。そんなこと聞かれなくても、何度も自分自身で問いかけているというのに。

正社員になるのは難しい。結婚もしたいけど合コンは気が乗らないし、会社にもいい人がいない。

「間違いなく、この路地裏にもいい人なんていないだろうけど」

家に帰りたくなくて彷徨っていたのは、会社があるオフィス街から一本奥に入った路地だった。

寂れた雑居ビルが立ち並んでいて、まだ十八時過ぎだというのにどこもシャッターが下りている。

人の気配もなく、ただでさえ落ち込んでいるのに、ここにいると更に気持ちが沈んでしまいそうだ。



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