ケータイ小説 野いちご

その他詰め合わせ

海底バス

いつもと同じ朝がやってきた。

私は変わりなく、いつもと同じ時間のバスに乗る。

「お客さん、寒くないですか?」

バスの運転手さんから聞かれる。

「はい、ちょうどいいです」

そう答えるとそうですか、と返事が聞こえる。今日はイヤホンを片耳だけ外していた。片耳から聞こえる曲は、私がいつも聞いている曲じゃないと、今気がついた。

音楽のアプリを押して、探すけど、何故かその曲しかない。耳障りのいい。ちんとんという音が、オルゴールに似ている音が耳に入る。

ああ。こんな歌があったんだ。

少しして、バス停が近づく。でも人がいないの。

曲に耳を傾けると少し声が聞こえる。消え入りそうな高くてか細い声。ソプラノがきこえる子守唄のようなその声が、何を歌っているのかわからない。

どこの国の言葉なのかもわからない、でも酷く懐かしくて涙がこぼれそう。

次のバス停。でも人はいない。

その代わりに声がまた一つ増える、しっかりとしたアルト。陰に隠れてしまいがちなその声は 、自信がないのかたまに音を外す。

それをソプラノが必死にカバーする、でもアルトはそれを恐れて逃げるようにまた音を外す。

追いかけっこみたい。


次のバス停、誰もいない。


今度は力強いテナー。その声は自信満々に、永遠に捕まらない追いかけっこを終わらせるために歌う。二人を優しく諭すような歌い方。そして二人は正しい音を刻み始めた。

「終点ですよ」

運転手さんがミラー越しに手を振る。私は急いで通学カバンを持って出口へと向かった。

「ゴメンなさい」

「いいよいいよ、そんなにいい曲なの?」

「はい、とても」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「はい、ありがとうございました」

バス代を払ってバスを降りて。運転手さんに会釈をすると、運転手さんも白い手袋をつけた手を上げてくれる。

歩きだそうと前を向いた。そこにいたのは大事な友達。

普段は人が沢山いる駅には友達と私しかいない。

イヤホンから3人の歌い声が聞こえる。

勇気を持って 、諦めないで。面と向かって語りかければ、きっとあの子は許してくれる。

小さく息を吸って 、口を開く。口からこぽこぽと水の中にいるように空気が出ていった。


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