加奈子は家に帰り、自分の部屋で着替えるとすぐに携帯で志穂に電話を掛けた。昼間、志穂から『帰ったら話を聞かせてね』とメールが来ていたからだ。

もしかすると電話を掛けられるような時間には帰れないかも、と思った加奈子だったが、家には思いの外早く帰って来てしまった。

帰りに大輔からホテルとか、あるいは彼のアパートに誘われるかも、と加奈子は密かに思い、その場合、おそらく自分は断れないだろうと思った。しかし実際にはそういう事にはならず、真っ直ぐ加奈子の家まで送ってもらったのだ。


何事もなくて良かったと思うべきなのだが、ちょっと味気ないような気もする加奈子であった。


『加奈子、もう家なの?』


加奈子から電話が来た事に驚いた、といった様子の志穂だ。


「うん。今帰って来たところ……」

『そうなんだ……。で、今日はどうだった? どこへ行ったの? 大輔君と……』

「えっとね、富士山」

『富士山!?』

「そう。嶋田君は車を持っててね、それで……」


加奈子は、志穂のマンションを出てからの事を、かいつまんで志穂に説明した。