ようやく暑さの峠を越えたある休日の朝。加奈子はちょっとだけ余所行きの服装でリビングにいた。そしてレースのカーテン越しに庭先に目をやっていた。


「加奈子、今日はデートなの?」


朝から掃除や選択に甲斐甲斐しく動く母親が後ろから加奈子に声を掛けた。


「まあ、そんなところ」

「香川さんとは順調みたいね?」

「…………」


加奈子は、香川と別れて大輔と付き合っている事を剛史には話したが、両親にはまだ話していなかった。たぶん反対されると思うと言い難いからだ。


返事をせずに表に顔を向けた加奈子に、母親は一瞬首を傾げたが、さほど気には留めず玄関の方へ歩いて行った。それを加奈子が横目で見ていたら、母親は玄関へ行って下駄箱の扉を開いた。どうやら靴の整理や手入れを始めるらしい。


(まずいわ。そろそろ彼が来る頃なのに……)


その日、加奈子と大輔はドライブに行く約束をしていて、そろそろ大輔が迎えに来る頃合だった。大輔が来たら、両親に見られないようにサッと家を出ようと思い、こうして表を見ているのだが、母親が玄関にいては見られる可能性が高い。


そこで加奈子は母親の所へ行き、何とかして母親を玄関から遠ざけようと思った。