岩崎加奈子の腕の中で、幼子はイヤイヤをして体をくねらせた。


「穂奈美ちゃん、たまにはママ以外の人に抱っこされてもいいでしょ?」


幼子の穂奈美は、加奈子の言葉を無視し、母親の神林志穂に向かって手を差し出した。今にも泣き出しそうな顔で。


「ごめんね? この子ったら人見知りが激しくて……」

「それはしょうがないわよ。たまにしか来ない私が悪いんだわ。せっかく名前の一字を使ってもらったのに、私こそごめんね?」


そう言って、加奈子は渋々穂奈美を志穂の手に渡した。

穂奈美は、加奈子の親友である志穂の愛娘で、ようやく一歳の誕生日を過ぎたところだった。


ここは志穂たち家族が住むマンションの一室。主(あるじ)の神林祐樹はまだ帰宅していない。


「ちょくちょくお邪魔して、穂奈美ちゃんに懐いてほしかったけど、それも難しくなっちゃったかなあ……」

「え? ああ、加奈子は今度異動するんだもんね? しかも忙しそうな職場に……」