「菜都先輩、営業部長の話、長くありませんかぁ~」


未歩ちゃんが私の耳元に顔を寄せ小声でそう言うと、唇を尖らせた。


毎年宴会前のあいさつが長いことで有名な本社の部長だなけに、慣れているといえば慣れているんだけど……。


今年はいつにも増して饒舌で、正直私もうんざりし始めていたわけで。


そしてその場の誰もがしびれを切らし始めた頃、龍之介が突然コップを持って立ち上がった。


「本田部長、その話の続きは、僕にゆっくりと聞かせてはくれませんか? まずは乾杯といきましょう」


龍之介の物腰の柔らかな態度に、営業部長も「あぁ、そうだな」と素直にコップを津にした。


さすが、爽やか堤所長。このバージョン時の龍之介の、人を不快にさせない術は尊敬に値する。


私にも、そんなふうに接してくれればいいのに……。


ちょっと恨みがましい目つきで、龍之介を見つめる。


でもここは、この旅館で一番広い宴会場。龍之介と私の席は離れていて、私のそんな視線に彼が気づくこともなくて。


つまんない───


目を少し動かして清香さんを見てみれば、彼女もやっぱり龍之介を見ていて。


向かいの席にいる龍之介は清香さんの目線に気づくと、ふっと優しげな笑顔を見せた。


気に食わない───


どんな関係なのかは知らないけれど、今は私が龍之介の彼女のはずなのに……。