2.

男なら誰でもいい、湖山さんの代わりに、今夜一晩だけでいい、どうしても男を抱きたい、男に抱かれたい。湖山さんを好きになってから初めて、男を求めた。

湖山さんじゃないならどんな男だって湖山さんの代わりになれるわけがない。ずっと分かっていたから、湖山さんではない男となんか寝る気なったことはなかったのに、湖山さんじゃなくてもいいから、湖山さんだったら、と心で思えばいいから、満たされないと分かっているのに求めた。

バーで隣になった男は偶然にも少し湖山さんに似ていた。背の高さ、体の細さ、喉仏の感じも似ていた。喉仏が似ているというのは、声も少し似てたりするんだろうか。話す声はぜんぜん違うけれど、いやらしいことをしたら、同じような声を出すだろうか、と変態じみた事を考える。

ホテルの部屋でその男がシャワーを浴びている時、最後の電話を掛けた。賭けをした。もし、湖山さんが出てくれたら、この部屋を出て行こう。そして、二度と、俺の心の中から湖山さんがいなくなるまでは二度と、誰とも寝ない。もしも、湖山さんが出てくれなかったら・・・。

出てくれなかったら・・・。

この男を抱いて、この男に抱かれて、あんたの代わりに、壊れるくらいに、何も考えられないくらいに、何もかも投げ出して、もうこれで終わりにしよう。

泣きながら誰かを抱くなんて、生まれて初めてだった。
泣きながら、誰かの名前を呼ぶなんて、こんなに好きだったなんて。
湖山さんの名前を呼びながら、何度も、何度も、湖山さんって呼びながら、湖山さんに似た肩を湖山さんに似た背中を抱く。湖山さんの首筋もこんな風だったのかと、何度も何度も想像したとおりに、その首筋に自分の唇を当てて、湖山さんに似た男が仰け反るのを抱きしめる。抱きながら、「ごめん」と俺が謝るのは、湖山さんの代わりをさせているその男に対してなのだろうか、それとも、こうやって俺が陵辱している湖山さんに対してなんだろうか。

ごめん・・・・ごめんなさい・・・
湖山さん・・・大好きだ。

体中の何もかも、果ててしまった。
なのに、どうして満たされないのだろう。
どうしてこんなに、飢えているのだろう。
何もかもこんなに出し切ったのに。

「気が済むまで、したいだけ、していいよ」
と、その男は言った。その声は少しも、湖山さんに似ていない。