「俺んちね、すぐそこ」

「へー、街中なんですね」

「職場に近い便利な所がいいから」

 有料駐車場だと思っていた場所は先生が月極めで借りているらしく、そのまま私の隣をいつものようにゆっくりと歩きながら自宅へ向かった。

「布団って大きいですよね? 手で持てますか?」

「んー、大丈夫でしょ」 

 まあ、玄関まで出せれば後はタクシーがあるし。大きい布団用の袋に入れれば大丈夫かな。

 考えているとすぐに着く。そこは、普通の二階建ての一軒家だった。

「先生、持ち家なんですか!?」

「うん、実家」

 あそうか、と思ったがすぐに不思議になる。親は?

「じゃあここで、待ってます」

 中に人がいそうになかったが、一応そう言った。

「いいよ。誰もいないから入って」

 先生は引き戸を引いたまま、待っている。 

 仕方ないので、入ることにした。何の用もないけど。

「おじゃましまーす……」

「誰もいないよ」

 やっぱり。

「靴脱いで入って。布団、奥だから」

 まさか一緒に持たないと持てないのかな……。

 まあそうか、敷布団だけじゃないしな。

 と思いながら、先生の後について電気がついた廊下をまっすぐ歩く。すぐ最初の部屋を通り越して、奥の部屋の電気をつけた。

 だがそこは部屋ではなく階段の踊り場だったようで、更に階段を昇っていく。

 あぁ、二階から下ろすのが大変なのか、と思いながら後に続く。

 上がってすぐのドアを開けた。寝室兼書斎か。デスクとベッドが置いてある。

 月明かりでそれらは見えたが、更にベッドの隣の間接照明をつけると写真立てや本棚がよく見えた。

 布団って? この部屋の押し入れの中だろうか。

「やっぱり俺のこと、好きだったんだ」

 何のことだとドアの方を振り返る。

「え……」

「好きじゃなきゃ、ここまで来てくれないもんね」

 言いながら先生はベッドに腰かけた。

 一体どういう……。

 言おうとする前に手を取られ、引っ張られた。

 全く体勢がなっていなかったため、すぐに足がもつれ、その身体の上に覆いかぶさってベッドにもつれこんでしまう。

「……大胆なんだね。意外、とは思わないけど」

 何言ってんだこの人!? と慌てて起き上がろうとしたが、右手首をがっちり掴んで上に引っ張られ、力が入らない。

「ちょっ、手を……!!」

 今度は左手をどうにか動かせ、布団に手を着いて立ち上がろうとする。

「……!!」

 この体制をどうにかしようと、このままではヤバいということの方にしか頭が回らず、必死で立ち上がろうとしていて、忘れていた。

 自分の顔の真下に先生の顔があったことを。

 先生は少し頭を上げると簡単に唇を舌で舐めた。

 驚きと、更に右手首を引っ張られたことで体勢が大きく崩れる。

 目を開けると、そこには先生の左耳が目の前に見えた。

「抵抗しないね」

 言いながら、顔をこちらに向け、目を合せてくる。

「してます!!」

 思い切って言った。

「でもキスしたしな……」

 それは突然だったからでしょー!!

「んじゃ、キスするから抵抗してみて……」

 言っておいて、右手首に力を込めてくる。

 完全に抵抗できないんですけど!!

「あ……」

 実際はその間に簡単に唇と唇が合わせられてしまう。

「ちょっと気持ちいいって思ってる?」

 思ってないのに。

 目を見てそう言われると、ただ目を見返すだけになってしまう。

「優しくするから、する?」

 右手首から手が離れ、ゆっくりと両腕を使って抱きしめてくる。

 こんなベッドの上で、優しくされると、どうでもいいと思ってきてしまう。

「今までより、ずっといいかも」

 耳元で囁かれ、最高の自分を想像してしまう。

「後悔させないよ」

 ほんとかよー……一瞬不安になるが、それを跳ね飛ばすように、柔らかなキスをあちこちに落としてくる。

「思う存分愛するから……、力抜いてくれる?」