ケータイ小説 野いちご

強引にされたら気持ち、揺らぐんだってば

酔いつぶれた翌日


 以上そこまで。

 そこから先の記憶は、一切ない。

 いや、消したのではない。まさかそこでトイレに行きそびれて漏らしたからって理由ではない。

 とにかく分からない、覚えていない。多分、あそこであのまま突然寝たか頭を打ったのではないか。

 だってそうじゃないと説明がつかない。

 だって、ここ、どこ……。

 起き上がろうとすると、頭がぐらんと回って吐き気がした。

 え……ここどこ?……ホテル?

 トイレ行きたい……。

 回る頭を押さえて、どうにかそのキングダブルの天蓋付ベッドから降りる。絨毯は毛が深く、素足が中まで入り込んで気持ちが良い。

 あれ、私ワイシャツ着てる……?

 一体誰の物だとしげしげと確認していると、ドアノブが回り、人が入って来る。……ハルト??

 と、思いきや、

 ……誰!???

「あ、起きました?」

 ダークスーツに黒いセルフレームのメガネをかけた細身の男性は、にこやかな笑顔をむけてくる。

「あの、トイレを……」

 まあ、今は誰でもいい。とにかく、先にトイレに行きたい。

「あそこです」

 気付かなかったが、今男性が入ってきたドア以外にももう1つドアがあった。

 急いで開けると洗面室になっており、シャワールームとトイレが別々になっている。とにかく、用をたして下腹部をまず楽にさせる。次いで、洗面所で少し吐いてみた。

 普段飲みすぎることなどない葉月にとって、無理矢理指を突っ込んで吐くという行為など簡単にできるはずはない。出るのは唾だけで、えづくので精一杯。

 水道の水を横にあったコップで注いで飲む。段々足がだるくなり、その場に座り込んだ。

 何で……こんなに気分悪い?

 昨日そんなに飲んだ……?

 カクテルだって結局3杯しか飲んでなかったはず……。

 回る頭の中、ドアをノックする音が聞こえた。

 だが、それに反応する気力も今はない。

「大丈夫ですか? 開けますよ?」

 声はちゃんと聞こえていたけど、開けて見られてもいいという気持ちが大きく、無理に声は出さなかった。

 すぐにドアはガチャリと開いて、

「大丈夫ですか!?」

 座り込んでいるのに驚いたのか、大きな声が聞こえた。頭が痛い。

「……きぶんわる……」

 い、の一言も出ない。

「吐きました?」

「……」

 応えるのも面倒臭い。

「……ベッド行きましょうか、とりあえず……」

んなこと言われたって立つのもしんどい。とにかく、頭、胸周辺が酒臭くて気分が悪い。

男は立てないことに気づくと、すぐに両足を抱えて腰に力を入れた。50キロもない。大丈夫、普通の男なら抱えられるよ!!

 細身のわりに力があるのか、名も知らない男は、さっきのベッドまで簡単に抱えて行ってくれる。

「つめたいみず……あります?」

「あ、多分……」

 とりあえず世話してくれるみたいだからこの人に任せよう。もう今何されたって抵抗できないのなら、相手を信用する方がいい。

 すぐに水を運んできてくれたので、飲んでしばらく寝た。いや、目を閉じた。トイレにも行ったし、気分は少しずつ楽になっていく。

 どのくらいうとうとしただろう。男も寝室に入ってこないし、いるのかいないのかも分からず、確認する意味で寝室から出た。

「あ、ありがとうございました」

 ドアの向こうはリビングになっていて、男はまだいた。手持ち無沙汰に新聞を読んでいたようだが、飽きたのだろう。ソファで横になっていたようだった。

「え、あ……ああ、起きたんですか」

「はい、だいぶ楽になりました……」

 そんなことより実は、自分がワイシャツと下着しか着てない状況の方が気になったのだが仕方ない。

「じゃあハルトさんに電話しますか?」

「え……あの、すみません。……あの、その前に、あなたは誰ですか?」

「僕はハルトさんの事務所の者です。あなたが起きるまでついててくれって頼まれました」

「え゛、あ、そうだったんですか……、すみません、ありがとうございました」

「いえいえ、仕事です」

 まあ、愛想笑いされてもしかたない。

「あの、ハルトさんの電話番号教えていただけませんか?」

「え、知らないんですか?」

「確か、聞いてないと思うんです」

 いや、絶対に聞いてない。

「えーと……」

 彼はスマホのメモリーの中から簡単に見つけるとディスプレイに出し、電話をかてくれる。

「2つあるんですが、どっちかには出ると思います」

「ありがとうございます」

 とりあえず、電話をしよう……というか、仕事中に出るのだろうか……。

 コールは短く鳴る。

「もしもし、須賀です。女性の方、起きられました。お電話代わります……はい、どうぞ」

 「ありがとうございます」と言いながら、須賀に渡されたスマホを耳にあてた。

「あ、もしもし、ハルトさん、私……」

「あー、やっと起きたんだー」

「すみません。記憶がなんかあやふやで。あの、えっと、ここ、どこですか?」

「僕んちだよ」

「え!? あの……私……」

「とりあえず、今仕事終わらせるから帰るね。待ってて。じゃあちょっと須賀君に変わって?」

「え、あ……はい」
 
 スマホを渡して、一通り業務内容を述べたかと思うと渡される。

「えっと……一時間くらいはかかるけど待ってて。何か食べたいものある?」

「……氷……カキ氷とか」

「カキ氷……コンビにとかで売ってるやつでいい?」

「はい」

「じゃあそれ買ってく」

 電話が切れるなり須賀は帰っていくし、しばらく一人きりになった。

 というか、随分信用されていて、怖い。まあ、元はユウジの知り合いだけど。けど、知り合い程度で友達ってわけじゃないのに。ましてや、ハルトとは初対面だったのに。
 
 さすが芸能人、情には流されやすいのかもしれない(?)。

 それでも、信用されていることに悪い気はしなかったし、昨日の食事でだいぶ距離が縮まった気がしていたので、リビングと繋がっているキッチン周りを拝見したり、ソファに寝転んだり、時間潰しにかかる。

 それにしても広い家だ……家賃どれくらいだろう。眺めも相当いい。芸能人の豪邸ってつまりこういうことなのだろうと実感した。

他の部屋も豪勢に違いない。かといって、他の部屋に無断で入るのはさすがに憚られ、結局須賀のようにソファで寝転ぶ以外何もない。

 リビングのクリスタル時計で確認すると、それから約一時間半以上が経過した時、ようやく玄関の扉が開いた。

「ただいまあー」

 ドアを開ける音の次に聞こえたのは、場違いなほどに明るい声。

「おかえりなさい」

 とりあえず玄関に向かった。

「はいお土産ぇ……」

 コンビニのビニール袋を差し出してくれたはいいが、なぜかハルトの動きが止まった。

「え、何です?」

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