ケータイ小説 野いちご

強引にされたら気持ち、揺らぐんだってば

公認させて物にする
落ちちゃえ



 ユーチューブでユウジを見ると、信じられない気持になる。

 ……バシッと決めるとこうなることが。

 普段、私が見るユウジは、既に舞台から降りたユウジであり、画面のユウジではない。

つまり、ミュージシャンではない、一般人なのだ。

「なにぃ? 俺はなあ、惚れたらすごいよぉ」

「…………」

 こうやって、間近で顔をジロジロ見ても、ユウジは何とも思わないようで、冗談を飛ばしているつもりか、上機嫌のままでいる。

「いつも思うけど、なんか、信じられないなあ……」

 私は、焼き肉を目の前にしながらも、それらは全て対面で座るユウジに任せ、自らは、腕を組んでふんぞり返った。

「何が?」

 当のユウジは、テーブルの上の肉をどう食すことにしか今は興味がないらしく、こちらを全く見てはいない。

「ユーチューブに出てることが」

「ウィキペディアにも載ってるよ」

「すごいよねえ、それって。やっぱ有名人なんだなあ……」

 ここで一旦区切ると、網の上の肉をようやく取る。

「有名人ゆーたらそうかもしれんけど、まあこうやって普通に食事できるしマシちゃう?それに比べたらハルなんか大変な生活してると思うけどなあ」

「やっぱいつも変装?」

「いや、個室取る」

「そんなの別に不倫だって同じじゃん」

「不倫ってあんたねえ!……いやけど、彼くらい有名ならもう本当ええと思うけどね」

「……何が?」

「富も名誉も、地位もなんでもある」

「へえ……そうなんだ。けど、銀行でお金貸してくれないよね?」

「借りることなんかないない」

「そうかもしれないけど」

「で、どうなん、あれから?」

 本日、この会食を提案したのは葉月。珍しいことであった。用もなくこちらから誘ったのは初めてである。

「べつにぃ……え、何が?」

「またまたあ、分かってるくせにぃ」

「分かんないよ、何?」

「あーあ……」

 ユウジはにやけたまま、また箸を動かし始める。

「ハルトさん、時々電話かかってくる。二日に一回だけど」

「へえー!!!」

「何?」

 その驚きに、こちらが驚く。

「いやあ。そういうタイプやとは思ってなかったからね」

「……何が?」

「いやあ。なんというか、へえー、そうなんやあ……」

「何!? そっちが聞いたから言ったんだよ!」

「いやあ……そこまでやったとは……」

 人の話聞いてねーな。

「いや、なんというか、わりと自分からそこまでこう、一方通行的な感じではいかんからね」

「え、一方通行ですよ、完全に」

「迷惑してる?」

「……多少……」

「またまたあ、多少でしょ?」

 だからそう言った!

「多少……これが芸能人なのかあ、みたいな。なかなか芸能人と電話することとかないし」

「でなくて、ハルやから面白いんやて。だって俺も芸能人やし」

「あそっか」

 ようやく私は納得した。

「俺と電話したっておしろーないやろ?」

「ないない!」

「って一回しか電話したことないやろー! 一回くらいでなんも分かるかー!!」

「そだね」

「あっ、これまだ中焼けてない」

「外焦げ過ぎ(笑)」

「えーやん付き合えば。何が嫌?」

「芸能人。気ぃ遣うよ。やだ。嫌、怖い。威圧的。遊んでそう。私は知り合ったからってすぐ付き合うとかそういうことできない」

「よーけ言うたなあ! なに? 威圧的?」

「断れない。次どこ行くとか、どこ行きたいとも言ってないし。けどなんか私が言ったみたいな雰囲気にされてる」

「(笑)。ほんまに嫌なら行かん言うたらええやん」

「そうだけど、言いにくい」

「えー、それって結構好きなんちゃう?」

「違うと思うけどなあ……」

「違わへん気がするけど」

「違う気がすると思うけどなあ……」

「じゃあまた3人で行く?」

「行く行くー!」

「3人ならええの?」

「私、ユウジさんの方が好きなのかな?」

「だから言うてるやん。俺は惚れたらすごいって!」

「何が(笑)」

「……まあ、とにかく。ほな3人で。って今呼べばええやん」

「えー……」

「そうや、そうしたらええやん!」

 言いながら既にユウジは、スマホを取り出している。

「今どこいてる?」

 平日の午後8時。電話はすぐに繋がるが、芸能人は忙しいに決まっている。

「あ、ほな9時くらいにあく?今紗羅ちゃんと焼き肉来てんねんけど、合流できたらなあと」

 ユウジがこちらを見たが、知らんぷり。

「あーそう、うーん……11時くらいならあくって」

「えっ、いえ、私はもう……」

「別に用事ないとは言うてるけど」

 「何も言ってないし!!」は目で訴える。

「じゃあ、うーん、どうしよ、後日にする?」

「私は……別に」

 言いながら、考える。11時までは後3時間ある。だけど、12時くらいまでなら、大丈夫?

「いや、待つよ」

 何も言ってないのに、ユウジに見透かされた気がした。

「うん、うん、じゃあ、またかけて、はい、はーい」

 電話はフランクに切れる。

「明日仕事?」

 ユウジはそれを一番に聞いてきた。

「うん」

「けど会いたいかなあ思って」

「……」

 それを否定しきれない自分がいる気がした。そもそも、今日ユウジに会ったのは、それを確認するためだった気もする。

「今からどうしよかなあ。3時間かあ……」

「けど、会っても私、そんな長くはいられないかな……」

 無理して会う。それも少し、違う気がした。

「明日仕事やけど若いしいけるやろ」

「そうだけど! 私だってちゃんと働いてるんだから夜更かししたら仕事にならないよ」

「今忙しい?」

「……どっちかっていうと暇月だけど」

 正直に言う。

「じゃあええやん、決まり決まりぃ」

「何が?」

「朝までゴーゴー!」

「だから何が……」

 店の回転率を上げるためにも、食事が済んだ客はすぐに出るべきだが、そういう気を遣わない2人は、そのまま永遠ともいえる長い時間をあっという間に過ごしてしまった。

「ごめぇん、遅れちゃって」

 と、突然現れたのは、まだ午後10時45分のこと。

「早いやん! あれ、電話くれてた」

「2人とも出ないし何してんのかと思っちゃった」

「あ、本当だ、すみません」

 2人は同時にディスプレイを見て、名前を確認するとすぐに閉じた。

「今からどうする? 飯食ったんでしょ?」

「そうよぉ、飲み過ぎて、眠い」

「あの、すみません、こんな夜遅くに……」

 呼び出してしまって、は違う気がしたので、そこまでで控えた。

「いいや……僕は、会いたかったから」

 あそう………。

 ユウジを先に見た。だが奴は、何知らぬ顔で、水で口直しをしている。

「さ、行こう」

「どこにっ?」

 私はハルトを見つめた。

「俺結構眠いんやけど、ドライブくらいでええよ」

 全く気を遣わないユウジが割り込んでくる。

「ドライブ……、うち来る? したら、ユウジもゆっくりできるし」

「えっ!? 私もですか!?」

「だから誘ってくれたんじゃないの?」

 あまあ、そうだけど……。

「そうですけど…………」

 ユウジはそもそも自転車だったので、ハルトの車に3人で乗ることにする。

予想を反してユウジが先に後部座席に乗ったので、後に続こうと思ったが、ハルトのスマートなエスコートによって助手席のドアが開かれてしまったため、仕方なく助手席に座ることになる。

「今日は、今までお仕事だったんですか?」

「うんそう、レコーディング」

「本当、お休みないんですね」

「作るよ、来週」

「あっ、ああ……そうですよね、なんか色々、溜まってきますよね。仕事以外でやらなきゃいけないことが!」

「今一番したいことは、デートかなあ」

「……ああ、デート……」

 復唱したが、特に意味はない。

「木金、休みとれそうなんだけど、休みだったよね?」

「へ? え、まあ……」

「何したい?」

「えっ、私、ですか?」

「そうだよ」

 ハルトは呑気に笑っている。

「何……」

「何もしたくないなら、家でのんびりしててもいいし」

「そうですよね、ハルトさん、久し振りの休みだし家でゆっくりした方がいいと思います」

「だから、一緒にね」

「一緒に……」

「紗羅ちゃんの家でもいいよ」

「えっ、うっ、ちっは……」

「僕んちでもいいし」

「え、へ、ああ……」

「嫌?」

「いやあ……」

「その返し、多いなあ。言いたいことがあるなら、はっきり言ってよ?」

 もうユウジのことなんて、どうでもいいやと、口に出す。

「あのぉ……、あのですね……」

 言いかけたはいいが、やはり、後ろで黙りこくっているユウジが気になってしまう。

「うん、何?」

「………」

 息を吸ったり、吐いてみたりしたが、やはり、ユウジが気になって仕方ない。

「いえあのっ……あのぉ……」

「後ろの巨体は気にしなくていいから」

「気にしなくていいから」

 後ろからしっかり声が聞こえてくる。

「気にしてません!」

 とっさに後ろを向いた。が、ユウジはこちらを見ているわけでもなく、スマホをいじっている。

 気にし過ぎだ。

「……で、次のお休みは……」

「いや、今僕が聞いてるのは、何か言いたいことあるのかってこと」

「……ありますけど、今は……あとで言います」

「邪魔者がいるからなあ」

「俺のことはミトコンドリアとでも思ってくれたらええのに」

「ミトコンドリア……」

「水槽の周りにつく緑の藻」

「でかっ!」

 私は笑った。

「大きさ関係ないやろー」

「(笑)、まあないですけど、面白すぎる」

 ハルトも駐車しながら笑っている。そのバックの際、シートに手がかかってドキドキするのを俯いて隠す。

「前来た時、フロア全部見れなかったけど今日は案内してあげるね」

 前回も来た高級マンションだが、一般手家庭では想像できないほどの広さであった。最上階全てが自分の家らしいが、私が暮らしている1人暮らしの家が、何件入るか想像もできない。

 
 かくして、3人はエレベーターで最上階に上がっていったわけだが。

「廊下も使えば、100人ぐらい住めそうですね」

「100人って言った人は初めてだね、50人とかは言われたことあるけど」

「ミトコンドリア100人なら」

 私はユウジに笑いかけた。

「でかいけどね、ミトコンドリアは」

 ユウジは前を見たまま、眠そうに答えた。

「じゃ、お邪魔でしたー」

「え゛!?」

 エレベーターの途中でユウジは1人降りて行ってしまう。

「下のフロアが事務所になってるから」

「帰るって……」

「そこで寝れるから」

「いや、というか……」

 2人きり!?

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