ケータイ小説 野いちご

強引にされたら気持ち、揺らぐんだってば

ランチ→




 ほんとにドタキャンしやがった…。

 葉月は隣の黒尽くめの男をちらちら盗み見しながら、目を白黒させていた。

「どうする? 僕せっかく時間作ってきたんだけどなあ」

 いやそんなの、一般人の私も同じですよ。忙しいのはあなただけじゃない!!

「…そうですよね…」

 ってなんで私が悪いみたいな!!

 ことの始まりは今ここにドタキャンしていない、一人の男、ユウジの戯言から始まった。いや、なんか知らないけど、美味しいランチの店があって、そこで3人で食べたいとか言い出して……。で、友達を一人連れてくるからって聞いていたのだが、それが男なのか女なのかも聞いてはおらず、まあ、適当にやりすごせるくらいのものだと思っていた。

それよりも、ランチの方に興味があったので仕方ない。いつも行列ができている店のランチを知り合いを通じて前もって予約することができたというからそこに目がいくばかりで。 

 全くあの男……ぎっくり腰で行けないなんて、嘘じゃないだろうな!! しかもその友達が電話に出ないから、私が友達を探してユウジが来ないことを伝えなければいけないという流れになってしまった。

 で、その待ち合わせ場所に既に来てしまっていた友人がこの人、超有名人、ハルト。……そうだよね、多分テレビのハルトだよね?

ぎぇぇぇぇ、なんかテレビみたいなオシャレな茶色のジャケットに黒いズボン、さりげないんだか目立たせているのか分からないシルバーアクセサリーにゴツイブーツ。更に、サングラスがすっごい目だってる気がするんですけど!? ほんとにこれで行列ランチの店に入る気か!?!?


 んで、待ち合わせの高級ホテルのロビーで堂々と英字新聞なんか読んでて。どんだけ話しかけづらかったか!!

「あのー…人違いだったら、すみません、吉田さんの、お友達の方ですよね?」

 って何で私がこんなメル友と初顔合わせみたいな恥ずかしいことしなきゃならないんだ!!

「え……あ、そうです……あれ? ユウジ、まだ来てないの?」

「あ、あのそれが……」

 って私がぎっくり腰の話しを説明すると、なんか私が仕組んでもらったみたいじゃん!! だけど、断じてそれは違います!!

 それで今の「どうしようかな」に続くのである。

「ランチ、予約してるとは言ってましたけど……」

「じゃあせっかくだから行く? 僕は別に構わないよ。2人でも」

 さすが軽いね芸能人。出会った瞬間からお友達。

「え、あ、そうですね……。あの、私は構わないんですけど、その、なんか、見張りの人とかいないのかな……」

「見張り?」

「カメラマンとか……こう……フライデーみたいな……」

 きょろきょろしている自分が一番不自然であることは分かっていたが、何せこの人は普通じゃない。

「大丈夫じゃない? そんな滅多にいないよ」

 あはぁ、まあ、あなたがいいんならいいですけど。どうせ週刊誌に出たって私は目に線入れてくれて、一般OLとでも書かれるんだろうし。

「あ、じゃあ……」

 と2人は距離をとって歩き出す。

 入ったのはイタリアンレストランだが、普段予約は受け付けない店である。それがなんともまあユウジのおかげで拝めるのだからありがたやありがたや。

 入るなり、吉田の名前を告げ、中に案内してもらう。良かった、テーブルは3人席が用意されており、今日のことが芝居ではないことが一応確認された。

テーブルについてもメニュー表はなく、ランチのみと決まっている。

ってかしまった、まさかここで割り勘などしないだろうこの人……。

ランチプレートは息着くまもなく運ばれて来て、特に会話も必要ないまま、

「美味しいですね」

とかまあそんな独り言ともとれるような発言だけが宙に浮き、外で並んでいる人のことが気になって、さっさと会計になってしまう。

「カードで」

 やると思った。だけどここで、言い出す言葉が見つからずに、結局そのまま店を出てしまう。それからようやく一言出した。

「あの、お金、払います。そんな初対面の方に……」

 受け取らないことなど分かっていたが、とりあえずバックから財布を出して、歩く。

「いいよいいよ。女の子からはお金受け取らない主義だから」

 まあ、大抵そうだろうな……。

「あの、じゃあ、どこかで甘い物でも食べません? もしお時間があるんなら、ですけど。けどお忙しいですよね。あ、ユウジさんのお見舞いに行かないといけませんし」

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