呆然とする私をよそに、

美登里は忘れ物を受け取ると、

逃げるように、帰って行ってしまった。

・・・

会長も、何事もなかったように、

自室に帰ろうとしていた。

・・・・

「待ってください、会長!」

私の言葉に、会長はこちらに目を向けた。


「どうした?」

「どうしたじゃありません、亜紀の母親と、

親しいんですか?」


・・・

一瞬間を開け、困った顔をした会長だったが、

すぐに気を取り直して答えた。


「宗吾、取引先にでも行くところじゃないのか?」

…ハッとして時計を見ると、

待ち合わせ時間が迫っていた。

困惑の表情で会長を見ると、

会長は困った顔で少し笑った・・・

・・・

「仕事が終わったら、うちに来なさい・・・

会社で話すような事でもない、プライベートな事だ。

・・・いいな?」


会長の言葉に頷き、

私は会社を出た。