悲しみに浸る暇はなかった。
この洞窟が警察官に見つかるのも時間の問題だ。

俺は曽野宮の遺した言葉の通り、ズボンのポケットから紙きれを取り出した。

「これがお前の遺してくれた最後の物か……曽野宮」

紙切れはノートのページを乱暴に破ったような物だった。
決して丁寧には折られていない、グチャグチャに丸めてあるといった方がいいくらいだ。
曽野宮がどれだけ必死だったかが伺える。

俺はその紙切れを自分のポケットに移し、冷たくなった曽野宮の体を横に寝かせた。