アイラは急ぎ足にエリーシャについて歩きながらたずねた。

「あの人、お知り合いなんですか?」
「あの人?」
「ええ、さっき被害者の人を預けた……」

 本当は役人が来るまで待っていなければならないのだが、エリーシャはそれを無視したのだ。めんどくさいというのが彼女の言い分。

「ああ、近くの酒場の主人。人柄は保証できるから、大丈夫」

 アイラは繁華街には近寄らないようにしていたから、酒場の主人になど知り合いはいない。エリーシャはしばしば後宮を抜け出ているのだろうか。

 それからは、もめ事に巻き込まれることもなく無事に繁華街を通り抜けて住宅街へと入る。アイラの家はそこにあった。

 当然のことながら、家は出た時と変わったようには見えなかった。家の前に立つと、エリーシャは顎をしゃくった。

「鍵開けて――それから、ジェンセンの研究室に連れて行ってちょうだい」
「……かしこまりました」

 アイラはエリーシャに言われるままに扉を開く。それから研究室の方へと皇女を導いていった。