侍女たちの控え室には、その奥にいくつか扉が並んでいた。

「あっちがわたしたちの寝室。寝る時に個室がもらえるというのはありがたいわよね」

 イリア、と呼ばれた少女がアイラに説明してくれる。

「でも、あなたは――別。エリーシャ様の寝室で休んでちょうだい。護衛侍女だってことは聞いているから」
「荷物は?」

「私物は――そうね、侍女の寝室が一つあいてるし、そこを使えばいいんじゃないかしら。一人になりたいこともあるでしょ、きっと」
「侍女ってそんなに一人になれる時間とかあるの?」
「どうかしら?」

 ファナが横から口を挟んだ。

「エリーシャ様は手がかからないっていう言い方はおかしいかもしれないけれど、たいていのことはご自分でなさるから――リリーア様付きの侍女は大変らしいわよ」

 タラゴナ帝国の皇太子は数年前に死去している。

 エリーシャはその長女であり、皇太子の最初の娘である。最初の皇太子妃はエリーシャの出産と同時に亡くなっているから、彼女は母の顔を知らない。